【5日目】体力だけでは前へ進めない!

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曇天

起きたら7時過ぎ。

朝イチで15番国分寺を打つつもりが寝坊した。

空はどんよりと暗い。15番国分寺へは少し打ち戻ることになるので、ザックは善根宿に置かせてもらい、納経朝と雨具だけ持って向かう。

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イシイくん

15番国分寺の手前でボクの前を歩く遍路がいた。

若い男性。ベースボールキャップを目深にかぶりザックに菅笠をくくり付けている。

のっしのっしと下半身にウェイトを置いた歩き方が特徴的だ。

納経を済ませ挨拶をする。パラパラと降り始めた。

山門で雨宿りしながら話す。東京から来たらしい。

これが愛媛県までの長きにわたって抜きつ抜かれつすることになるイシイくんとの出会いだった。

ボクより1日遅いスタートで、昨日12番焼山寺を打ったあとその脚でさらに20km近くを歩き、13番大日寺手前の遍路休憩所で野宿したという。

連絡先を交換し、小降りになったのを見計らって別れた。

善根宿「いのちのさと」に戻る。

雨はやまず

お店は開店準備をしていて、おじさんがお茶をくれた。

おじさんは空を指差して、あの辺りが明るくなれば雨は止むという。

小一時間ほど待機したが一向にあの辺りが明るむ気配はなく、いつまでもいさせてもらうわけにもいかず、ポンチョをかぶって出発した。

交通安全的な観点から真っ黄色のポンチョにしたのだが、気力が落ちているときの原色ほど煩わしいものはない。

これにKAVUのチルバハットをかぶってオッチョコチョイの木枯し紋次郎のような格好で歩き始めた。

体力だけでは歩けない

16番観音寺を打つ。

納経帳を濡らさぬよう四苦八苦していると、納経所のばあさんがナイロン袋を2枚くれた。

17番井戸寺を打つころには雨は上がった。これからどうしよう。

まだ昼過ぎでいくらも歩いてないので体力だけはある。

少しでも18番恩山寺に近づくべきだが、どこかで野宿をする気力がなかった。

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昨日は風呂も入っていないし洗濯もしていない。

雨にも降られてドロドロである。態勢を立て直したかった。

ボクは徳島市内へ向かうことにした。

遍路をスタートさせた大鶴旅館に予約の電話を入れた。

今日で5日目、女将さんの言った通りである。

寝床が決まれば気が楽になる。大鶴旅館まで行けばリセットできる。

17番井戸寺を出たところでチャリのおばさんに声をかけられた。

「えらいなー。お接待してあげたいけど何ももっていないのよー」とエプロンのポケットを探りながら残念そうに言った。

心身ともに参っているボクにはその気持ちがうれしかった。

雨は降ったり止んだりを繰り返している。

雨のときはザックも尻も濡れるから、気楽に地面で休むことができない。

そうして気力も体力も削られてしまう。

徳島ラーメンを

徳島の市街地に入った。腹が減ってフラフラだ。

徳島にいるのだからと、有名な「いのたに」で徳島ラーメンを食う。

カップルやサラリーマンに混じってファンタジー側にいる薄汚れた遍路がラーメンをすすっているのは滑稽に思えた。皆それぞれの時間を生きている。

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眉山のロープウェイ山麓駅に出た。

東屋に遍路が1人休んでいる。15番国分寺で出会ったイシイくんである。今夜の寝床について話す。

イシイくんは雨宿りしたコンビニで地元のおじさんに声をかけられ、その人の家に泊めてもらうことになったそう。

ここで待ち合わせているという。人徳である。

ボクにはそういうことは起こりそうにない。

女将さんのホスピタリティ

家路を急ぐように、大鶴旅館へ向かう。

女将さんは風呂を沸かしてくれていた。それがどれだけうれしいことかわかるかい?

洗濯もしておいてくれると言うが、さすがに2日間の汚れが染み込んだ洗濯物をお願いするのは憚られた。

風呂場に入るやモワッと湯気が体にまとわりつく。

湯気は清潔の象徴である。餓鬼のごとく湯を浴び坊主頭に無駄に3度もシャンプーをした。

これまで5日間歩いてみて、荷物を減らす必要性を感じていた。

テーピングをしていてもマメはできるからもう使っていない、懐中電灯にもなるミニランタンがあるのでヘッドライトもいらない、初日いきなり落として壊した万歩計もいらない、旅先で飲みにいくことを想定して持ってきたおしゃれ着はまったく必要ないな。

風呂を出て洗濯を済ませても空はまだ薄っすらと陽を残していた。

雨は上がり、夕焼けしていた。

だらしなくビールを呑むのを楽しみにしていたが、凄まじい眠気に襲われた。

明日は晴れるかなムニャムニャ……。

20時には就寝。

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