【8日目】ミスフィッツ!

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ゴミはどうする?

朝4時。まだ空気はひんやりしている。

同宿のアンドウさんはすでに起きてパッキングを始めている。

晩メシで出たゴミの処理に困る。無料で泊めてもらってる善根宿に置いていくわけにもいかない。

持って出ようということになり、アンドウさんが先に出発した。

お互い口には出さないが、「じゃまた日和佐で」となんとなく通じ合っている。

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ゴミ袋をカラビナでザックにぶら下げて、ボクも遅れて出発した。

左手の丘から御来光が射し、遍路道をいっきに明るくした。

ゴミをどうするか。スーパーとかコンビニがあれば言って捨てさせてもらうこともできようがこの先ありそうもない。

町内のゴミ集積所があった。ちょうどゴミの日らしい。

一時的な無縁者

遍路をすることは無縁になることだ。

自治体、組織、人脈、住処から一時的に無縁になり、あらゆる生活行動を「野」で行う。

野でメシを食うし野に眠る。やむなく野で排泄することだってあるだろう。

が、いくら四国の人が歩き遍路に寛大といっても最低限のルールは守らねばならぬ。

野宿するときは近隣に挨拶するし、遍路だからとみだりにそのへんでうんこするなど言語道断。

そうやってモラルのデッドラインぎりぎりをせめぎ合うのである。

自分の行いを正当化するようで恐縮である。

本当はダメだけどぎりぎりセーフかな、とゴミ袋をそっとネットの下に入れさせてもらった。

遍路道が国道55号に合流した。

道沿いの遍路小屋にアンドウさんがいた。2、3言葉を交わして入れ替わるようにアンドウさんは出発した。

トンネル怖い

トンネルの歩道を歩く。クルマの音が反響して轟音になる。

これは大型トラックだなと身構えていると追い抜いていくのはばあさんの運転する軽だったりする。

ちょうどところてんの天突き器のように、トンネルいっぱいいっぱいの押し棒が背後から迫ってくる気がするのだ。

長い下り坂、何も考えずぼんやりと歩いていたら道は海岸線に向かっていたらしい。

そう、ようやく遠くに海が見えてきたのである。

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遍路道のハイライト

遍路道のハイライトは太平洋に沿って歩く高知だろう。

室戸岬から足摺岬までの壮大な遍路道には強烈な「果てに向かう感」がある。

高知人の豪快な気性を表す言葉に男性を「いごっそう」、女性を「はちきん」と呼ぶのがあるが、その荒っぽさから昔は高知を避けて通る遍路がいたり、土佐藩が遍路を排斥した時代があって高知を除いた「三国参り」をした時期もあったと聞く。

30番札所の権利を巡って2つの寺がバトったのも高知。

はるか昔の話かと思ったら、抗争が決着したのはなんと平成6年のこと。

そして海岸線を辿るということは、夏の太陽にされされることを意味する。

この一筋縄にいかない高知を「修行の道場」とはよくいったものである。ちなみに徳島は「発心の道場」、愛媛は「菩薩の道場」、香川は「涅槃の道場」という。

通りすがりの漁港で

坂を下り切るとJR由岐駅に出た。

漁師町の小さなスーパーで巻き寿司とお茶を買う。

「カレーうどんドッグ」なる珍しいパンにはこの暑さから目もくれなかったが、話のネタに食っときゃよかったなと後で後悔した。

スーパーを出たところで店のおばさんが追いかけてきて塩アメをお接待してくれた。

由岐の漁港で昼メシにする。

日射でカンカンに熱くなった防波堤に座ると、熱で尻がイタがゆくなるしお茶はあっという間にぬるま湯だ。

JRの田井ノ浜駅、木岐駅と進み、恵比須浜に出た。

入江にたくさんの魚が泳いでいた。後で聞いたらイシイくんはここでエイを見たらしい。

日和佐の街

日和佐の市街地に入った。23番薬王寺のランドマーク、瑜祇塔ゆぎとうが見えている。

お接待所があり休ませてもらう。おばさんが2人いて冷たいお茶と菓子を出してくれた。

日和佐の目抜き通りにサングラス姿のアンドウさん。すでに投宿したらしく手ぶらだ。

日和佐のメガネ屋で1万円のを3000円で買ったと自慢げである。

23番薬王寺の境内から日和佐の街を一望する。

JR、日和佐城、海、川、島がぎゅっとして箱庭ならぬ箱街の風情。

今日はここまでなので23番薬王寺の門前の銭湯で汗を流す。

15時すぎで先客はなし。まだ高い陽の射し込む湯に浸かって手足を伸ばすと極楽気分だ。

誰かが入ってきたと思ったらアンドウさんだ。今夜の宿で無料券をもらったらしい。

「ご縁がありますなあ」なぞと笑いながら一緒に湯に浸かる。

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寝床を探す

風呂上りにアンドウさんは休憩所でテレビを見ていた。

ボクは銭湯にある洗濯機を回し、その間にいくつか用事を済ますため外へ出た。

爪切りを持ってきてなかったのでコンビニで買った。

「道の駅ひわさ」でちらし寿司とビールを買って早めの晩メシにした。

そして寝床の確保。今夜は「道の駅ひわさ」で野宿をするつもり。

売店のおばさんに野宿してもいいか聞くと「どうぞどうぞと言うわけにはいかないけど、皆さん野宿されてますよ」とのこと。

敷地内の東屋で野宿する遍路が多いらしい。

洗濯物を取りに銭湯に戻るとアンドウさんはもう宿に引き上げていた。

あわい?

ボクは日和佐で見ておきたいものがある。

漁港特有の細路地である。

海風対策で家を密集させてあるのだ。

日和佐ではその路地を「あわい」と呼ぶ。

銭湯でザックを預かってもらい、受付のにいさんに「あわい」の場所を尋ねる。

一瞬「?」という顔をするもすぐに「ああ、あわいですね」と教えてくれた。

どうも発音が少し違うらしい。

乾燥機代もバカにならんので、洗濯物を道の駅の東屋に干した。

まだ西陽もあるしすぐに乾くだろう。

古い銭湯を博物館にリノベーションした「日和佐浦ゆ」があった。

歩いていたばあさんに「あわい」を尋ねる。やはり通じない。

どうやらアクセントを付けない発音がよくないらしい。

「わ」に軽くアクセントをおき、「い」は「え」と中間の発音をするようだ。

「あいぇ」は「日和佐浦ゆ」周辺に広がっていた。

家々が軒を突き合わせて細路地を作っている。路地の先に海が見えたりもする。

知らない土地の路地を抜けるのはドキドキする。住人の気配が近い。炊事、トイレ、テレビの音、息遣いまで聞こえてきそうだ。

ミスフィッツ

明るいうちにテントを組み立てる。

試しに東屋に置いてみるが衆目にさらされている気がする。他にいい場所がないか周辺を探索してみる。

道の駅はJR日和佐駅と繋がっており、駅施設の建物裏に人目につかない場所があったが妙に湿っていたのでボツ。

自販機コーナーに面白い場所があった。

自販機と自販機の間に奥まった謎のスペースがありベンチも置いてある。

ご丁寧にナイロンののれんまであって死角になってて都合がいい。

ここにしようとのれんをくぐった瞬間、おじさんと目が合った。

とっさに「ボクそこの東屋で野宿するのでよろしくお願いします」と挨拶した。

たまげた。まさか人がいたとは。

世捨て人だとひと目でわかった。ミスフィッツ(社会不適合者)だ。関わってはいけない。

脱力しているのに目だけギラついているのが特徴だ。

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シンパシー

のれんを隔ててぎこちない会話をしていたら、おもむろにおじさんが外へ出てきてグググと伸びをした。

ミスフィッツが人前でリラックスするとき、それは相手を忌避の対象と見ていないときである。自分と同じ匂いがすると思ったときである。

「ボクも東屋で寝ようかな」

おじさんはそう言い、自分の自転車を東屋に移動させた。

宿で時間を持て余したのだろう。アンドウさんが様子を見に現れた。

近くにある善根宿「はしもと」を見に行こうかなとか言ってる。

有名な善根宿「はしもと」は廃バスの中で寝られるようになっていて、晩メシも無料で食べきれないほどの量が出るという。イシイくんは今夜そこにお世話になるらしい。

完全な無縁者

コンビニで明日の携帯食や、晩酌のビールを買う。

おじさんは51歳。愛媛の松山から来たというがそこが故郷ではない。そして彼は遍路でもない。

松山で仕事を失いもう何ヶ月もチャリで無目的に四国をさまよっているのだという。

おじさんの話は面白かった。

あるとき、山中で陽が暮れてしまい、間の悪いことに雨が降ってきた。雨を凌いで夜明かしできる場所がないか探したという。

「そしたら斜めに傾いたコーラのベンチを見つけたんですよっ!」

ほんとうにうれしかったのだという風に声をうわずらせた。

それは商店の軒先に置かれたベンチだった。

朝までそのベンチで過ごしたらしい。

2分間のパンクロック

人間追い詰められると心のシャッターが切られる。

疲れと焦りの中、暗がりに浮かぶ傾いたコーラのロゴは強烈に脳裏に焼き付いただろう。

が、この話のキモはピンチを回避できた幸運なのであり、傾いたコーラのロゴは蛇足である。

傾いていたことにドラマがあるでもない、単に足場が悪かっただけだ。

話している最中、彼の頭の中では傾いたコーラのロゴがフラッシュバックしまくっていて、技巧的に話すフィルターを通さず、吐き出す言葉はその映像に直結していた。

おじさんの話はまるで2分間のパンクロックだった。

結界

野宿はもっぱら道の駅。

あそこは野宿OK、あそこは怒られるといったことをよく知っていた。

背後が壁になったベンチというのが彼の基本的な野宿ルールだった。

目の前に停めたチャリと壁にはさまれた空間が安息なのだと。

寝ていたら暴走族が集まってきたことがあったという。

敵チームといざこざがあったらしく、報復の相談を始めるなど物騒な雰囲気だった。

殺気立った連中のとばっちりを受けやしないかと体をこわばらせていたが、チャリと壁の結界でコトなきを得たらしい。

おじさんのママチャリのカゴには各種缶詰が満タン入っていた。

ビールを呑むボクにつまみにしてくれとマグロ缶をくれたりする。

遅くまでおじさんと話し込んだ。感性が瑞々しい。

ボクは冗談と本気半々で本を出すよう薦めた。ボクが面白がっていることをおじさんも喜んでいるようだった。

寝て起きればお別れになるのが惜しかった。いい出会いだった。

帰る家はもうないのだと彼は言った。

日和佐のランドマーク、23番薬王寺の瑜祇塔がこんな時間までライトアップされていた。
「野」でミスフィッツが2人、それを見ていた。

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