【21日目】住みたくなるような街!

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決意

野宿の朝は早起きだ。

ボクがテントを片付けていると「じゃ、先行きます」と言い、イシイくんが先に出発した。

ゆうべボクらは行動を別にすると決めた。

考え方の違いではなく、逆にぴたりと一致したがゆえの決断である。

しばらく会うことはないだろう。

寂しくはあるが、それぞれの遍路道を行くことに胸が高鳴っていた。

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便意

いつものように便意がきた。

時間は5:40。「佐賀温泉こぶしのさと」の開館までまだ20分ある。

ちっとヤバめだが、まあ10分前には誰か来るだろう。

5:50、動きはない。

うろうろと歩いて便意を散らせようとするが状況は抜き差しならない。

やってしまうか、野で。諦念があたまをかすめる。

いやダメだ、やっぱりクールに遍路を終えたい。

しかしもうダメだ。ボクの創造物が世に出ようとしている。肛門括約筋が壊れそうだ。

6:00。誰も現れない。

自動ドアをバンバン叩き、指をこじいれて隙間から叫んだ。「すいませーん、すいませーん」

オワタと白目をむいたそのとき、ようやく寝癖頭の男性が解錠した。

トイレへ一直線、便座に座ると全身が鳴動した。

歩くアメ

山のガスが生き物のように這い出して遍路道を湿らせる。

目の前にクルマが停まる。

おじさんが下りてきて「甘いもん食うか」とアメをお接待してくれた。

足形というのが気が利いている。

土佐くろしお鉄道の土佐佐賀駅あたりで視界に太平洋がひらけた。

横浪半島から先、ずっと山あいだったが久しぶりに海沿いの道だ。これが足摺岬まで続く。

四万十川の渡船

と、その前に四万十川だ。

四万十川を渡るにはいくつかのルートがあるが、ボクは渡船で渡る「下田の渡し」を選んだ。

渡船は要予約である。

30分前から受け付けているが、朝イチに乗りたいので今日中に予約しておきたい。

と、その前に寝床を確保だ。

遍路地図を見ると渡船の手前に「ペンションひらの」と「四万十の宿」の2軒の宿がある。

「四万十の宿」に電話した。素泊まりプランはなく、お遍路プランというのが1泊2食付きで8000円だった。

大尽遍路ではないのでさすがにこれは無理だ。

次に「ペンションひらの」に電話してみる。サーファー向けの格安宿で素泊まり4000円、こちらに予約を入れた。

渡船にも予約の電話を入れる。朝は7時からだという。

明日の目的地は足摺岬だから早くに出発したい。6時に乗りたいと伝える。

さすがに渋られて間をとって6時半に約束した。

明朝までの段取りが決まった。

流刑地を歩く

井ノ岬のトンネルを抜けたところで道路工事の警備員さんがいた。

イシイくんの容姿を伝えると、1時間半ほど前にそれらしき人が通ったという。

土佐くろしお鉄道の海の王迎うみのおうむかえ駅があった。

変わった名前だなと調べてみると、鎌倉時代に尊良親王が流刑された地というのが由来らしい。ここまで来ると都に舞い戻れない僻地というわけだ。

国道56号沿いの木陰にアイスクリンの屋台が出ていた。

ボクはひとやすみした。おばさんはひと盛りおまけしてくれた。

足摺岬方面を一望できた。

「あそこに見えているのが足摺岬ですか?」、「多分そうやろう」。とても穏やかに話すおばさんだった。

メシを食いそこねている。そろそろ13時、ちょっとバテてきた。

「道の駅ビオスおおがた」で四万十のりとしらすの丼を食べた。

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暴君西日

「土佐西南大規模公園」というハンパなくでかい公園の中に遍路道がある。

よく整備されてキレイである。気持ちよく野宿できるなあと思ったが野宿は禁止だった。

日陰を見つけてへたり込む。メシを食ったのに体力が回復しない。

「ペンションひらの」まであとどれくらいだろう。

「土佐西南大規模公園」を抜けると四万十市街へ向かうルートとの分岐に出る。

「下田の渡し」を選んだボクは海沿いの県道42号を進む。

西日の時間帯になってきた。

昼と違って日射が横からくるから帽子も役に立たない。横っ面を張られてるみたいだ。

ペースが上がらない。休める日陰もない。

ようやく見つけた自販機にもたれて水を飲んだ。

住みたくなるような街

16時、「ペンションひらの」に投宿。

ご主人が美味いアイスコーヒーを振る舞ってくれた。宿舎は離れにあるが極度の疲れからすぐに動けなかった。

サニーデイサービスの「恋におちたら」ではないけれど「住みたくなるような街」を探すというのはこの旅の裏テーマだった。ボクは田舎暮らしに憧れていた。

ここ四万十市は移住者が多いと聞く。

宿から近い平野浜や双海浜はサーフィン、四万十川はカヤック。足をのばせばダイビングやシュノーケリングのポイントにも事欠かない。

そうした嗜好を持つスローライフ者が集まってくるのである。

ご主人にそのへんの事情を尋ねてみた。

やはり都会からの移住者は多いらしい。

「でも1年もつ人はなかなかおらんよ。皆都会へ帰っていく。ここで仕事を見つるっていっても限られとるからね。医者とか手に職がある人でないと難しいやろうな」

ご主人はバナナやお菓子をお接待してくれた。

宿舎はリゾートっぽい平屋だった。手入れが行き届いていてキレイだった。

クーラーをつけて風呂に入る。

昨日は洗濯をできていない、汚れ物をぜんぶ洗濯機に放り込んだ。

土佐弁ブルース

部屋にあった浴衣を着て海パンをはいて、近所のメシ屋へ向かう。

「ふる里」と屋号を掲げた掘っ立て小屋だった。

数人が酒盛りしているが店の人がいない。

客の1人が女将さんを呼びにいってくれた。

にんにく焼きそばと缶ビールをもらう。

客たちは皆近所のおじさんだ。極限まで日焼けした手でビール缶をつかんでいた。

楽しげに談笑しておられるが、方言がストロングすぎて全く聞き取れない。

断片を繋ぎ合わせると、どうやら寝小便をいつまでしていたかという自慢話らしい。

難解でむせるほどにブルージーな土佐弁だった。

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