【27日目】般若心経!

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最後まで優しい

玄関で靴紐を結んでいたら、ご主人が気づいて起きてきた。

朝5時にもかかわらず見送ってくれる。最後まできめ細やかな優しみのある方である。

外はまだ薄暗い。

24h営業のコインランドリーの灯りで缶コーヒーを飲んだ。

早朝の散歩をする人がたくさんいた。

1人のおじさんに声をかけられて立ち話。おじさんもまた遍路経験者だった。

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札所バトル

過去に30番の札所権を巡って2つの寺が争った話をしてくれた。

高知の善楽寺と安楽寺である。

30番札所が2つあるという異常事態に、当時の遍路はやむなく2寺ともまわったらしい。

「迷惑な話だよ」と言って笑った。

30番札所が善楽寺、その奥の院が安楽寺ということで落着したのは1994年のことである。

JR務田むでん駅前のコンビニ前で朝メシを食っていたら、同宿だったおじさん遍路が手を振ってチャリで走り抜けた。

暗唱、般若心経

距離の近い41番龍光寺と42番佛木寺ぶつもくじを立て続けに打つ。

ふと、般若心経を空で唱えていることに気づいた。

知らぬ間に暗記していたのだ。

納経のときにはいつも手に持っていた、1番霊山寺でもらった般若心経の冊子はぼろぼろになっていた。

43番明石寺めいせきじまでは10km。歯長峠の山越えがある。

急斜面に垂らした鎖を上る箇所があった。ザックの重みに体が引っ張られる。

一歩間違えたら滑落だ。

雨の日もヤバいが、逆打ちだとこれを下るわけでもっとヤバい。

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花火大会

43番明石寺は盛夏のくぼみのごとき静謐さで印象に残った。

今日は大洲おおずまで行きたい。

「大洲郷土館ユースホステル」に予約の電話を入れた。

今夜は大洲で花火大会があるから早くおいでと言う。旅先で偶然祭りに出会すのはワクワクする。

国道56号をひたすら進む。ただ黙々と歩く。

なかなか座れる場所がなく、長らく休憩を取れていない。

とりあえず自販機で飲み物を買って、どこでもいいから座ろうと思ったところで「お遍路さん休憩所」の看板を見つけた。休憩所は「酒六冷蔵宇和工場」の敷地内にあるらしい。

若き日の思い出

声をかけたら事務所のおばさんが対応してくれた。応接室を休憩所として開放してくれているのだ。

皆が仕事をする中、恐縮しつつソファに座らせてもらった。

菓子やゼリーなど山盛りお接待してくれた。

ボクが大阪からと知ると、おばさんは若いころ大阪の生野区で仕事をしていた話をしてくれた。

当時よく通ったという美味い食堂の話をして懐かしんでおられた。

この先には全長1kmの鳥坂トンネルがある。歩きで1kmというのは非常に長い。

歩道はないが、入り口に反射板付きのタスキが置いてあるという。

おばさんは出発するボクにアメやらキャラメルやらを山盛り持たせてくれた。

トンネルの入り口でタスキを取って手にライトを持った。

トンネルの歩き方

歩道のないトンネルでは右側、左側、どちらを歩くのが良いか。

常識で言えばクルマの進行方向と同じ左側であろう。しかし背後から迫りくるクルマというのは非常に恐ろしい。

トンネル内でクルマの走行音がフィードバックして轟音ノイズになるから軽自動車が10tトラックサイズに感じられる。

クルマとの距離感もつかめないから、こちらも避ける姿勢をとるタイミングがわからない。

何度も振り返って目視することになるのだが、そのたびにザックが壁に当たるのである。

ザックが当たって体がよろめけばクルマとの接触の原因になりかねない。

なによりクルマの運転手とのアイコンタクトができないので、こちらの存在に気づいてくれているのかどうか心許ない。

ボクは右側、つまり対向車線を歩いた。

むろんこちらも恐怖には違いないし、運転手をビックリさせてしまうデメリットがある。

メリットはこちらから何らかのアクションを起こせることだ。

前方からクルマが近づいてきたときの間合いもつかみやすい。

近づいてきたらいい加減のところでライトを振ってこちらの存在をアピールする。

前輪がセンターラインに寄っていけばボクを避けてくれていると確認ができる。

避けてくれるクルマには手を上げて謝意を示す。

気づくのが遅く急ハンドルを切ったり、気づいているのかいないのかギリギリをかすめていくクルマもある。

あ、こいつ避けないなと察知したときは、立ち止まって壁にピタリと張り付いてやり過ごすのだ。

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祭りの高揚

トンネルを抜けると大洲までの長い下り。

大洲市街に入り、肱川ひじかわを渡る。

後に計測したらこの日は45km以上歩いていた。当初は1日30km前後を目安にしていたが、歩ける距離も随分長くなったものである。

街には屋台が出て、早くもたくさんの人がそぞろ歩いている。鈴なりの提灯が祭りの気分を盛り上げる。

岡山からの一人旅

「大洲郷土館ユースホステル」に投宿。

1人旅をしているおじさんが同宿だった。

岡山からきたというおじさんは三半規管を患っていて、四六時中目眩がするのだという。

決定的な治療法のない病なのだと言った。

だからといって引きこもっていても腐るので、今回思い切って青春18切符で1人旅に出たのだと話してくれた。

たまたま立ち寄ったこの大洲を気に入って、1泊の予定を2泊に伸ばしたらしい。

花火が始まるから下りてこい、と階下で女将さんが呼んでいる。

ボクはビールを片手に外へ出た。

宿の関係者だろうか、若い男性がボクの手足に虫除けスプレーをかけてくれた。

花火は宿のすぐ裏の肱川であがるらしい。

堤防には大勢の人がいた。

宿の人が用意してくれたパイプイスに岡山のおじさんと座った。

やがて花火大会の開会を宣言するアナウンスが流れた。

故郷への愛憎

花火は文字通り目の前であがった。

特等席だ。岡山のおじさんと共に歓声を上げて手を叩く。

虫除けスプレーをかけてくれた若い男性がボクの隣に座った。

「大阪は景気どうですか?仕事はありますか?」という質問から会話が始まった。年は30代前半だろうか。

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大洲は景気が悪いという。

先日、神戸で自分の条件に見合った会社を見つけたという。社名を言われたがボクは知らなかった。

大洲を出てそこに就職を考えているらしい。

逆にボクは田舎暮らしに憧れていたので、大洲に住んでネットで何か仕事ができないものかと相談してみた。

大洲はそういうことに疎いのだと言った。

ホームページを持っているような企業や商店はほとんどないのだと。

農業はどうかと尋ねたら休耕田ばかりだという。

それこそIターンで農業をやりたいのなら借りられる土地は山ほどあると。

若者の言葉には故郷に対する愛憎があった。

こんな田舎で一生を終えたくない、でもいざ故郷を離れるとなると果たしてそれが正解なのかと、そんな葛藤に満ちていた。

おそらく若者が期待したのはボクがその社名を知っていて「その会社なら安心ですよ、知り合いがいるから紹介しますよ」といった言葉だったろうと思う。

誰でもいいから背中を押してもらいたい。それは痛いほどに伝わってきた。

上司と部下

花火が終わった。

近所の方だろうか、アロハシャツのおじさんが女将さんに挨拶をしていた。

アロハのおじさんは岡山のおじさんを一瞥すると弾けたように声をかけた。

「◯◯さん!私です△△です!」

なんと、2人は過去に同じ石油会社に勤めていた上司と部下の間柄だった。

これには部外者のボクも驚いた、すごい偶然である。

アイデンティティが薄まる

女将さんがスイカを切ってくれるといい、ボクも同席させてもらった。

ご近所さんやらご親戚やらかなりの人数である。

知らない土地で祭りに巻き込まれ、知らない人たちに混じってスイカを食べていると、自分のアイデンティティは場に溶け込んで希薄になる。

多くの人が旅に求めてるのってこれじゃないのか。

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