【4日目】旅の味!

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納豆サプライズ

すだち館の朝メシに好物の納豆が出た。納豆にみそ汁、最高の朝メシである。

テーブルに見慣れない薄黄色の液体が入った容器があった。

弁髪の男性がおもむろにそれを納豆に投入。「すだち酢」というらしい。

「酢」と付いているが加工品ではなく100%すだち果汁のことである。

ボクも真似して入れてみる。なるほどこれは衝撃的に美味い。

皆みそ汁にも卵焼きにも「すだち酢」をかけてる。その土地特有の食べ方って面白い。

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追い付いたり追い越されたり

支度をして食堂へ戻るとマウンテンバイクに乗った老遍路と女将さんが話していた。

老遍路はチャリだから山道ではなく車道でここまで来たらしい。

これから12番焼山寺へ上るという。

女将さんとは顔見知りのようだったから、初めての遍路ではないのかも知れない。

こうして他の遍路とすれ違うことはある。言葉を交わしもする。

が、いずれもその場限りである。

遍路本やブログにあるみたいに追いついたり追い越されたりする場面がない。

年齢の近い遍路とも出会わない。

真夏は遍路が最も少ない時期だから仕方ないのかも知れないが、味気ないなあとは思う。

女将さんが弁当を持たせてくれた。おにぎり、バナナ、菓子が入っている。

ここから13番大日寺まではルートが2つある。

玉ヶ峠越え

昨日行った神山温泉経由と玉ヶ峠経由。ボクは後者を選んだ。

玉ヶ峠を越えて下り道になると一気に景色が開けた。

蛇行して谷を巻く鮎喰川あくいがわを遠望する。

傍らに建つ民家が羨ましすぎるロケーション、ここで暮らしてみたいと思う。

下り切ると車道に合流し、阿川という集落に出た。

遍路道からマウンテンバイクが飛び出してきた。

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老遍路のニヒリズム

さっきすだち館にいたMTB老遍路だ。

向こうも気づいて急ブレーキをかけた。

12番焼山寺を打って下ってきたらしい。

MTB老遍路は京都の人だった。

「何周もまわってるんですか?」、「何周まわってるかはどうでもええねや」

「じゃ楽しいから?」、「家におってもやることないからや」

「この先の県道、歩道がなさそうですね」、

「俺なんかチャリで道の真ん中走るよ。別に死んでもどうってことない」

MTB老遍路は屈託なく笑い、県道のセンターライン上を立ちこぎで走り去った。

今夜の寝床は徳島市内のネットカフェだそうだ。

嘘をついたカカシ

阿川はカカシの里である。県道は「阿川案山子夢街道」とよばれ、そこかしこでカカシ達が劇場のように日常のワンシーンを演じている。

鮎喰川が大きく蛇行する手前で、遍路姿のカカシが右折して橋を渡るよう指示した。

蛇行せずにショートカットできるルートがあるらしく指示に従った。

蛇行箇所をやりすごしたらまた橋を渡って県道に戻るのだが……ん?……。

橋がない。橋桁を残して歩道部分がそっくり流されていた。

引き返すと最初に渡った橋のたもとで、ばあさんがシソの葉を洗っていた。

数ヶ月前の大雨で橋が流されたことを知る。

「かわいそうに。誰にも会わんかった?私いつもここに座ってるから声かけるんやけどねえ。一応看板は付いてるのよ」

右折して橋を渡る手前に看板があった。

「この先橋損壊につき、お遍路は県道直進」。ジーザス…見落としてた。

静かな県道

歩道はないがクルマのほとんど通らない県道。

ゆらゆらと陽炎の湧き立つ中をばあさんが乳母車を押してのんびり横断している。

「プツッ」という音が響きわたる。

スピーカーのスイッチの入る音。村内放送だ。

公民館で行われる健康診断を呼びかける内容だった。

誰も歩いていない、民家もない、間延びした時間の中で自分だけが歩いている。

ペースが遅い。いたるところが筋肉痛だ。「へんろころがし」の爪痕だ。

休みたいが腰を下ろせる場所がない。

次第に交通雨量が増えてきた。徳島の市街が近づいているのだ。

16時。ようやく今日1つ目の札所、13番大日寺に着く。

西日の差す中、入り組んだ住宅地を抜けて14番常楽寺も打った。

納経時間ギリギリの17時前。

納経所に誰もおらず声をかけると、高校生くらいの女の子が風呂上りの髪をバスタオルで拭きながら出てきた。

母親らしき人を呼んでくれて朱印をもらう。

「歩きですか。ご苦労様」の言葉が染みる。

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善根宿「いのちのさと」

知らない土地でこの時間に寝床を確保できていないのは不安なものである。

疲れは不安を増幅させる。

今夜の寝床はうどん屋いのちのさとがやっている善根宿にお世話になることにした。

お店の敷地内にモンゴルのゲルのような小屋があった。それが善根宿である。

室内は広く、小上がりの座敷はカーペットが敷かれてる。

電気、クーラー、テレビまであった。

救いのチャリ

風呂と洗濯はあきらめてメシの調達である。

うどん屋は閉まってるし辺りは見渡す限りの田園風景、スマホで見たらコンビニは1km先。

歩いて往復2kmはキツいが他に手段がない。ビールもぬるくなるだろうな。

表で人の気配。出ると若い男性が原付を駐輪しようとしていた。

うどん屋の関係者の方らしい。

ここで一泊させてもらう旨を告げる。

しばらくすると同じ男性が今度はチャリを駐輪しに来た。

立て続けに原付とチャリを駐輪する意味がわからなかったが、ボクはチャリを欲していた。

お願いするとちょっと躊躇したが貸してくれた。

コンビニはスルーしてマルヨシセンターというスーパーに行った。

ちょうど弁当が半額になっていて150円のカツ丼と、ビールのロング缶を2本買った。

氷袋ももらってビールも冷え冷えだ。

旅の醍醐味

暮れる見知らぬ空を見上げ、見知らぬ道を見知らぬチャリに乗って見知らぬ寝床へと帰る。

ボクはいったい何をしているのだろうと思う。

どこにも所属しない野良犬のような曖昧な存在。それこそが旅のうま味である。

まあ己が何者であろうと冷えたビールは確実に美味い。

1チャンネルしか映らんがテレビも見られる。

天気予報が明日は雨だと伝えている。

明日は15番国分寺からのスタート。

17番井戸寺を過ぎると徳島市内に戻るか、市街地を避けて眉山の南を行くルートがある。

どちらのルートをとっても善根宿の情報がなかった。

そもそも善根宿はどこにでもあるわけではない。

人の善意に頼りきりでは旅は続けられない。

これまでが恵まれていたのである。

そろそろ自分の判断で野宿をしなければならない。

が、ここへきて雨予報。

風呂に入っていないので体の汚れも気になる。

明日はとにかく雨が降り出す前に17番井戸寺まで打って、あとはどこかで風呂に入ったり洗濯したりして休養しようか、そんなことを考えていた。

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