トイレの話。
恥ずかしながら、洋式便器で満足に用を足せるようになったのはハタチを過ぎてからのこと。
実家のトイレが和式だったから、というのはある。
どうにも洋式のあの、オシリが閉じた状態から用を足す感覚をつかめずにいたのだ。
-->
だから、出かけた先で洋式しかなかったりすると途方に暮れたものである。
それでも四の五の言ってられない場合もあるわけで、そんな時どうしたかっていうと、洋式のフタを開けて、便器のフチに足をのせて、しゃがみこんで用を足していたのである。
ようは態勢だけ和式と同じにしたわけ。
目線の高さに落ち着きのなさを感じたものの、追い詰められれば人間たいがいのことは乗り越えるものである。
今でこそスマートに洋式を座りこなすボクだが、実はひとつだけシロクロついていないことがある。
オシリを拭く時に、手は横から入れるのか、前から入れるのか。
和式ならば横から(厳密には斜め後ろから)で異論はあるまい。
そのならいでボクは洋式を使う今でも拭きは横からである。
もう何年前になろうか、学生時代にこんなことを言ったクラスメートがいたのである。
「洋式は前からやで」
その時は、ああ自分は邪道なのだと、なんとなく肩身の狭い思いをしたものだ。
今でも時々、トイレでオシリの左側を持ちあげて拭いている時「これって間違ってるんだよなあ」と思うことがある。
-->
しかしどうだろう。
こと男性に限って言えば、前から拭くということに疑問が残らないではない。
前からだとどうしてもトイレットペーパーを持った手が、剣の切っ先に干渉するのではないだろうか。
あるいは、剣はいったん太ももなどに立てかけておいて、それから拭くというのか。
果たしてそれって合理性あるのか。
これを読んで下さっている男性諸君に問いたい。
洋式便器、横から拭くか、前から拭くか。
「横からだよ」
「前からだよ」
「どちらでもなくもっと特異だよ」。
そういったご意見を給わりたい。
邪道だったのはボクではなく、そのクラスメートの方ではないのか。
何十年か越しで、そのことを証明できれば幸いである。