【26日目】タビの旅とボクの旅!

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ゆうべは難儀をした。

「ゆらり内海」でメシ食って外へ出たらもう真っ暗だった。

ライトで足もとを照らしつつテントへ戻ると靴がなくなっていた。

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テントの中に入れたっけと探るもない。

遍路の汚い靴など盗まれるはずもない。

右往左往していると、ボクが「タビ」と名付けた野良犬が走り寄ってきて、くわえていたものをぽとりと落とした。

ライトで照らせばボクの靴である。

「お前か、犯人は!」と怒鳴りつけるとタビは楽しげに横っ跳びして、勢いそのままにぴょんぴょんと飛び跳ねて「遊べよ」とけしかけてくる。

こちらはそれどころではない。もう片方はどこだ。

手持ちのライトが照らす範囲はせまく、広いキャンプ場を探索するには無理があった。

近くの家族連れのテントはすでに灯りが消えていた。

寝ているだろうから辺りをライトで照らすのはためらわれた。

埒が明かないので夜が明けてからにしようとテントに入った。

寝転んだものの、見つからなければサンダルで歩くのかと思うと不安で眠れない。宇和島まで出れば靴は買えるだろうが25km以上ある。

おもむろにテントを這い出し、また靴探しをはじめた。

再び遊び相手を得たタビはボクの後をついて歩き、ふくらはぎを甘噛みしてきた。

近くの家族連れのテントに灯りが点いていた。

風呂に行っていたらしい。子供らが花火を始めた。

「靴見ませんでした?犬が持ってったみたいで」と母親に尋ねる。

「靴くわえて遊んでたからねえ。そのへんに無いかな?」

子供らが母親の言葉を追いかける。「犬が靴で遊んでた!」

母親が指したのはさっきも探した場所だったが、念のためもう一度照らすとボクの靴がひっくり返っていた。

家族連れに礼を言い、靴をテント内にしまう。

ホッとして池畔のベンチに座る。靴探しに奔走していて気付かなかった、空は満天の星だ。

タビは利口な犬だと思う。

靴をなくして右往左往するボクの前に、盗んだ靴の片方を持ってきた。

ボクの靴だと認識していて、ボクが探してるのもわかっていて、「探し物はこれでしょ?」とイタズラっぽい態度だった。

もう片方の靴は切り札である。切り札はボクをテントから引きずり出すのにまんまと成功した。

遊び相手欲しさの戦略のように思えたのである。

深夜、テントが揺れて目が覚めた。

テントのメッシュ窓を覗くと目の前にタビの鼻っ面があり、スンスンと鼻息を吹きかけてきた。

無視しているとまたテントを揺さぶってくる。

「コラッ」とテントを内側から叩いたらどこかへ走り去る気配がした。

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4時半起床。まだ薄暗い。

トイレへ行くと、夜明けを認めぬ酔漢のように常夜灯に羽虫が集まっていた。

すぐにタビはボクのそばに走り寄ってきた。

どこかのテントでかっぱらってきたサンダルをくわえている。

ボクはそれを褒めてやるような気持ちでときどき頭を撫でながらテントを片付けた。

支度を終えてタビと一緒にスティックパンを食った。

タビのように足先だけ毛色の違う犬は縁起が悪いと聞いたことがある。

縁起をかつぐ飼い主が、キャンプ場なら食いっぱぐれまいと放逐したのかも知れない。

さて、そろそろ出発だ。

短い時間だったがタビとはウマが合ったから後ろ髪を引かれた。

「ほな行くわなタビ」と、頭を撫でようとするが身をかわして撫でさせなかった。

ボクは車道まで出てから立ち止まった。

あちこち匂いを嗅いでまわるタビをしばらく見ていた。

タビは一度もこちらを見なかった。未練は持たぬというわけか。

キャンプ場は旅人が一時を過ごして去っていく場所である。

日々誰かが訪れては、タビは見送ってきた。

そんな時間をタビは旅しているのかも知れない。

ボクにはボクの旅がある。

一歩踏み出したら、タビの姿は自販機に隠れて見えなくなった。

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宇和海の美しい入江に沿って歩く。

ラジオ体操をする少年が歩くボクのほうをチラチラと見た。

前をおじさん遍路が歩いていた。大きな荷物を背負ってペースは遅い。

大声で歌っている。

追い抜きざまに挨拶をすると、おじさん遍路は歌ったまま会釈をした。

プロ遍路っぽかった。

民家の敷地内に遍路小屋があり、「弁当」ののぼりが出ていた。

早朝にもかかわらず、美味そうな弁当が300円で出ていた。

朝メシにする。遍路小屋で小学生の男の子がうつ伏せに寝ている。

ボクが向かいに座っても微動だにしない。

店のおばさん曰く、早朝から虫取りに行って帰るなりここで眠ってしまったそうだ。

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景色に変化が出た。チェーン店が目につくようになった。

宇和島市街に入った。

ぱらついていた雨が土砂降りになった。

愛媛新聞ビルのチャリ置き場で20分ほど雨宿りする。

宇和島の街を歩く。闘牛のポスターが目につく。

街外れにある「へんろ宿もやい」を予約した。

またしても野宿を避けた。昨日は洗濯をしていないから、と頭の中で言い訳をした。

15時にチェックイン。素泊まり3000円。クルマの整備工場の上が宿になっていた。

ご主人にメシを調達できる店を尋ねる。

スーパーとコンビニがあるという。どちらもここへ来る途中にあったので買っておけば良かった。

チャリを借りてコンビニへ行く。ペヤングの超大盛りとビールを買った。

まず風呂に入る。室内もそうだが風呂の清潔さには瞠目した。

女性的な感覚で手入れされ、隅々まで神経が行き届いていた。

「パジャマは好きなの着て下さい」とご主人は言う。

タンスには色とりどりのパジャマが入っていた。

お気に入りの一着に着替えて、食堂でペヤングを貪った。

ご主人は基本は自室にいて、ときどき食堂に顔を出した。

「冷蔵庫にスイカ切ってあるから」

どこまでも細やかな気遣い。良宿であると思う。

ビールを呑みつつ本棚にあった「マンガ般若心経入門」を読む。

自分が日々唱えている般若心経の意味をわかりやすく解説してあった。

面白くて読み耽った。

遅れてもう1人宿泊客があった。

自転車でまわっているというおじさん遍路で、初めてではなく何度目かとのことだった。

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