【35日目】異形の札所!

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※3500字の長文記事です。7分ほどで読めます。

消された文字

昨日は足の痛みで野宿地まで歩けず、JR伊予小松から電車に乗った。

今日はそこまで戻ってのスタートだ。

JR石鎚山駅へ向かう途中にある64番前神寺。その門前の石柱に寺名、その他文字が彫ってあるんだが1文字だけくり抜かれた箇所があるとカワムラさんの案内で見に行った。

石を穿ってでも排除しなければならない1文字とはなんだろう。どんな不都合が生じたのだろうか。何の文字だったかはカワムラさんも知らないらしい。

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異形の札所

カワムラさんと別れて電車に乗り、JR伊予小松駅前まで戻って62番宝寿寺に着いたのが7時前。

納経を済ませ、納経所が開くのを待つ。が、7時を過ぎても開く気配がない。

もしかして遅刻、と、納経所の扉に貼り紙を見つけた。

「当寺は霊場会とは無関係です。納経時間は8~17時。昼休みは12~13時」とある。

通常の札所は7〜17時まで通しである。

意味がわからない。わかるのは1時間待つという事実だけ。

ここが今日の一寺目になった巡り合わせを呪うしかない。

しかし7:55になっても誰も来ない。7:59になってようやく職員のおばさんが原付を横付けした。

京都から来たというおじさんとボクが納経帳を持って待っていたが、おばさんはハローもグッバイもサンキューも言わず、ボクらに一瞥もくれず、機械のように朱印を書いてよこした。

なんだこの気分。300円を払って納経帳にインクを塗ってもらったみたいだ。

ちなみにボクが訪れたとき、ここの本堂は工事中だった。カワムラさんの話では10年以上もこの状態で、改修する気はないだろうと。

ナンバーズ

札所なりの事情はおありだと思うが、それでもさすがにこのだらしないマイルールは訪れる者を馬鹿にしてやしないか。

荒れ寺を放置し、マイルールを正当化するために霊場会との無関係を謳う。うちは62番札所だけど来たい人だけ来てくれればいい、というスタンスなのであれば札所は返上すべきでは。

62番札所というものは唯一無二で、遍路は選べないのだ。

札所についてはこれまでにも幾度か疑問を持った。

むろん多くの札所がそうでないのは言うまでもないことだが、この頃からボクは札所のことを「ナンバーズ」と呼ぶようになった。

ボクは信仰心から歩いたわけではないので、どうしてもこういう物言いになってしまうが、もし四国八十八ヶ所に聖性というものがあるとするならば、ボクにとってはそれは遍路道の路上にのみあり、札所には納経スタンプラリーのチェックポイント以上のものを感じることは残念ながらほぼなかったのである。

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歩き遍路は萩生庵をめざす

63番吉祥寺を打ち、昨夜の野宿地へ戻る格好で64番前神寺を打つ。

境内にイシイくんとムラオカくんがいた。

昨日はイシイくんは伊予小松にある「ビジネス旅館小松」に泊まり、ムラオカくんは適当な場所で野宿したという。

ボクはそのタフさが羨ましい。

納経を済ませるといつものように「今日はどこまで?」となり、ボクが善根宿「萩生庵」にお世話になろうと思うと言うと、ムラオカくんもそうしようかなと。

イシイくんは四国中央市の三島まで行くという。かなりの距離だ。仕掛けるつもりなのだ。

ボクとイシイくんが先に歩き始めた。

ボクは明日、遍路道を外れて四国中央市へ墓参りに行く。おそらくもうイシイくんに追いつくことはない。

15番国分寺からさしつさされつ歩いてきた彼との、これが最後の同行歩きになるだろう。

善根宿「萩生庵」

15時、善根宿「萩生庵」に到着。ガレージの中に高床をこしらえ畳が敷いてある。

よくできたことに向かいの商店は缶ビールを商い、近くにはコンビニもある。

カワムラさんはすでに到着して畳に寝そべってた。

この近くのほっかほっか亭は、記名した納め札を持って行くととのり弁をお接待してくれるよとカワムラさんが教えてくれた。

イシイくんはのり弁でメシにしていくらしい。

表の流し台を借りてボクが手洗濯をしているとムラオカくんも到着した。

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ミッシングリンク

面白い偶然があった。

カワムラさんの名前を知ったムラオカくんが突然、「え!カワムラさんですか?クマちゃん知ってますよね」とたたみかけた。

ムラオカくんが広島に旅した際に泊まったゲストハウスで、従業員のクマちゃんという女の子と出会った。遍路経験者のクマちゃんに勧められてムラオカくんは遍路に出ようと思ったそうだ。

ムラオカくんが使っている菅笠はクマちゃんのお下がりである。

で、そのクマちゃんは夏にビキニ姿で遍路をするようなかなりヒップな女性らしく、その道中でカワムラさんと出会い一緒に歩いたというのだ。

クマちゃんにとってカワムラさんは思い出深く、ムラオカくんに「カワムラさんに会えたら面白いね」と話していたそうだ。

一方カワムラさんにとってもクマちゃんは強烈なインパクトがあったようで、同行した思い出を細部までよく覚えていた。

不思議なことがあるもんである。

イシイくんとの別れ

傍らで、弁当を食い終えたイシイくんが出発の素振りを見せた。いよいよお別れである。

イシイくんは納め札持たないボクに1枚手渡してくれた。横からカワムラさんが「ボクも1枚ちょーだい」とねだった。

「また是非会いましょう。戦友みたいなものですから」とイシイくんが言った。

ボクはうまく言葉が継げず、曖昧に相槌を打って握手をして見送った。

カワムラさんとほっかほっか亭へ行く。

どこまでも続く国道11号は輻射熱で陽炎が立ち、排気ガスと砂埃が煙るその中にイシイくんの姿があった。

のっしのっしと歩く見慣れた後ろ姿をボクはしばらく見ていた。

ほっかほっか亭のお接待

納め札を持つボクらを見て店のおばさんはすぐに察し、「ちょっと待ってね」と2人分ののり弁を作ってくれた。

変わったお接待だがどういうシステムなんだろう。ほっかほっか亭のオーナーが篤志家なのだろうか。

弁当を受け取って礼を言うと、帰り際に「(萩生庵の)奥さんによろしく伝えて」と言った。

ピンときた。もしかして納め札の枚数分、萩生庵の方が後日支払ってるのではないのか。

弁当を食っていたらムラオカくんがずぶ濡れで戻ってきた。聞けばそこの川で水浴びしてきたという。

ボクはそのワイルドさが欲しい。

ナカガワくん

カワムラさんは早々寝てしまった。

管理人のおばさんが顔を出した。この方が萩生庵の奥さんなのだろう。

奥さんは寝ているカワムラさんを指して怪訝そうに「この人朝からおる」と小声で言った。タチの悪いプロ遍路と思ったようだ。

陽も暮れてからもう1人遍路が到着。横須賀からきたナカガワくんという。

ガレージ内はもうスペースがないので家の中で布団で寝かせてもらうらしい。

猛省せよ馬鹿者よ

無頼にもボクはこの日、結構な量のビールを呑んで酔っ払ってしまった。楽しくなってしまい大声で品のない話をしたのも覚えている。

酩酊のなか何度もお借りしたトイレの行き帰り、奥さんがスタンドの灯りの下で読書あるいは書き物をされていた記憶がある。

ここは無料で寝床を提供されている善根宿だ。その上弁当までお接待してもらっている。

浮いた金で酒呑んで騒ぐなぞ不届き千万、恥ずべきことと猛省している。

カワムラさんがムックと起きたかと思うと、今まで鼻ぢょうちんを膨らませていたとは思えぬテンションで会話に食い込んできた。

なんなんだこの人は。

明日は川之江へ

明日は昼過ぎくらいまで歩いて、適当なところで電車に乗って四国中央市の川之江へ行って一泊する。

カワムラさんに昼過ぎならどの駅まで行けそうか尋ねると、伊予土居か赤星が妥当、寒川まで行けたら上等、三島まではキツいのこと。

カワムラさんの野宿地アーカイブから、明日は皆で65番三角寺の手前の公園で野宿すると決まったらしい。

ボクも明後日は朝イチで65番三角寺を目指したいから、明日はできるだけ先へ進んでおきたい。

カワムラさんの家はJR赤星駅近くの遍路道沿いらしい。

明日は家に寄ってテントを取ってくるという。本格的に連れ立って歩く気のようだ。

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