朝の支度
起床からだいたい1時間ほどで支度を終えるのがパターンになってきた。
他の人と比べるとちょっと遅いかも。
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今朝は4時半起床、5時半出発である。
午前中に横浪半島を縦断して、昼メシは須崎のローカルグルメ、鍋焼きラーメンを食いたいなと。
横浪半島は細尾根に沿って絶景続きの県道が通っていて、谷はリアス式に切れ込む。
住宅街でも商業地でもないのでクルマの往来は少なく、歩くにはいい。
ネコの屯所
駐車場のある展望台でひとやすみした。
数十匹の野良ネコたちが朝陽を浴びていた。
ザックからスティックパンを取り出す。
ネコたちが一斉にこちらを見る。チョッチョッチョッと口を鳴らしてみるけど反応はない。
それでも数匹がにじり寄ってきた。
スティックパンを投げてやると、モシャモシャとさして美味そうでもなく食った。
鍋焼きラーメン
希望通りちょうど昼時に須崎に入った。
鍋焼きラーメンで有名な橋本食堂は行列ができていた。
待合い名簿に記入して待つ。
遠方の友人を連れてきたらしい人が言う。「鍋焼きラーメンを出す店はいっぱいあるけど、ここが一番美味い」。
鍋焼きラーメン並とごはん小を注文。ちなみに「並」は「普」と表記してあった。
このクソ暑いなか、皆さん土鍋でグツグツいってるラーメンをすすっている。
話のネタくらいに思っていたのだが、なんのなんの滅法美味い。
押し出しは強いのにあっさりという鶏ガラしょう油の味は、店を出てからもしばらく口に残っていた。
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ちょっとした変化
「道の駅かわうその里すさき」にイシイくんがいた。
出発はボクが先だったが、鍋焼きラーメンを食ってる間に追い抜かれたらしい。
今日は久礼の街で宿に泊まろうと思っているが、イシイくんには伝えていない。
いつもみたいに誘えばいいのだけど、このころにはそれが少し憚られるようになっていた。
遍路に出る目的はそれぞれあるが、共通するのは独りで歩きたいということだ。
ボクもサークル的な遍路の集団に巻き込まれるのはまっぴらごめんだった。
出会いは欲しいけどウェットな関係はイヤ。
自分勝手に思索に耽りたいし、体調に正直にゆっくりウンコしたい。
イシイくんにも同じ匂いがあった。
しかし室戸岬あたりからだろうか、ボクは孤独を紛らわせるためイシイくんを誘導してきたように思う。
イシイくんは広島の岩国市出身である。米軍基地のそばで思春期を過ごした彼は、米兵たちのマッチョぶりにコンプレックスを感じたと言う。
そのコンプレックスが今回遍路に出た動機のひとつだとも語ってくれた。
ボクは自分の行動を顧みた。
不安や寂しさを紛らわせたくてイシイくんを利用しているのではないか。
イシイくんは優しい男であるから、違和感を持ちつつもボクに付き合ってくれているのではないか。
そんなモヤモヤから今日は誘えなかった。
鍋焼きラーメンの話をすると、「そんなに美味いなら俺も行ってくる」と橋本食堂へ行った。
夕立ち
「道の駅かわうその里すさき」でのんびりしていたら夕立に降られた。
雨宿りがてら宿に電話してみる。
遍路地図によると久礼には宿が2つある。
どちらも素泊まり4200円。双方へ電話して感じの良かったO旅館に仮予約した。
仮予約というのは、もしかすると久礼まで到達できなかったり、逆にその先まで行ってしまうことも想定して空きがあるかどうかだけ確認するものである。
近くまできたらもう一度電話すると伝えた。
夕立がおさまらない。隣のベンチにおじさんが座った。
広島からの団体客を乗せた大型バスの運転手だった。
お客さんが買い物などする間が束の間の休息らしい。
曰く、久礼を過ぎると坂ばっかりらしい。
お客さんがバスに戻るとおじさんも運転席に戻って、出発するバスの中から手を振ってくれた。
やや小降りになったところで、ポンチョをかぶり脚にナイロン袋を巻いてボクも出発した。
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JR安和駅に差しかかる。
ここは国民宿舎土佐から30kmほどだし宿も2軒あるので、昨夜イシイくんとこの辺が適当かもねなどと話していた。
が、先述したように思うところあり、ボクは次の久礼の街まで行こうと思う。
この先の焼坂トンネルが難所だった。長さが1kmもあるのに歩道がない。
入り口のボックスからリフレクターたすきを借りて、手にライトを持って潜り抜けた。
久礼の街に入る手前で、再びO旅館に連絡し正式に宿泊の予約をする。
焼き鳥ジェフミルズ
JR土佐久礼駅前に面白い焼き鳥屋があった。
路上に置いたコンテナの中で焼き鳥を焼いている。テイクアウト専門らしい。もくもくと煙を吐いている。
ジェフミルズのDJをして、焼き鳥焼いてるみたいと言ったのは誰だったか。
次々と串をひっくり返す店主の手つきはまるでDJだった。風呂を出たら缶ビールを買ってここで立ち呑みしようかと想像したらワクワクした。
As Soon As 風呂
投宿しすぐに風呂に入りたいと女将さんに告げると、風呂の用意はまだだと言う。
事前に到着時間は伝えたのになと思う。
遍路宿ではたいてい、到着の時間がわかっていれば風呂の用意をしてくれていた。
女将さんは湯をためる間に晩メシを買いに行けばいいと言う。
が、ここは譲れない。風呂は最優先である。
ボクは湯がたまるまで、壁の一点を見つめて待った。
同宿
階下で新たにチェックインする客があった。上がってきたのはイシイくんだった。
ボクがどの宿に泊まるかイシイくんは知らないはずである。聞けばボクの靴が玄関口に見えたので入ってきたらしい。
風呂をあがると外は土砂降りになっていた。
近くのスーパーへメシの調達に行く。さすがに焼き鳥ジェフミルズは撤収していた。
洗濯機をまわしながらイシイくんと酒盛りする。
緊張の糸を緩めリラックスする。やはり2人で呑むビールは美味い。
台無し
階下から「早く洗濯物取りこんで〜」と女将さんの声。間髪入れず「お遍路さーん、早くー」と急かす。
洗濯機が止まっていたらしい。
今すぐじゃないとダメなの?酒席に水をさされてムッとしながらも洗濯物を取りこんだ。
さっさと済ませて再開したい。
このタイミングで女将さんは宿代の精算を要求した。間が悪い。
部屋に財布を取りに戻る。
さらに追い討ちをかけるように、「夜にまた雨降ったらいかんから2階の廊下の窓閉めといて」と言う。
ボクは支払いをしながら嫌悪感をむき出しにした。
それが伝わったのか、女将さんは2階へ上がって自ら廊下の窓を閉めた。
早く業務から解放されたいのはわかる。洗濯ものをいつまでも放置されたくないのも理解できる。遍路は朝早くに出発するから宿代も今日中にもらっておかなければならないだろう。にしてももう少しスマートにやってもらいたかった。
イシイくんはこのあと更なる災難に遭う