狐や狸に化かされた話、謎の発光体、姿の見えない何者かの気配、神隠しなどなど、山にまつわる奇っ怪な話をフィールドワークで聞き集めた一冊。
怪談とも民話とも違う、語り手が体験したヤマもオチもない、自然現象とも生理現象ともつかないリアルな不思議話集である。
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Contents
狸に化かされた話
狸に化かされるといえば、青森に住んでた大叔母からそんな話を聞いたことがある。
教師をしていた大叔母が若いころ、仕事帰りに山道を歩いていると行く先に母親が立っている。
迎えにきてくれたものと思い、後を付いていこうとするが、なぜか母親は家とは違う方へずんずん歩いて行ってしまう。
呼んでも振り返らず、やがて姿が見えなくなったので大叔母はいつもの道で帰宅したところ、母親は家におり出かけてもいなかったという。
狸の仕業よ、大叔母はそう言ってた。
鳴動し発光する山
謎の発光体といえば、弊店のお客さんから聞いたこんな話。
関東からの移住者で今は高知市にお住まいだが、最初に住んだのは高知県東部、東洋町の野根という場所だった。
そこでは風が吹いているわけではないのに山がゴゴゴと鳴動し、雲ひとつない夜に山が青く発光するという。
それも1度や2度ではなくしょっちゅうだったらしい。
曰く「あのあたりで2週間くらいキャンプしてたら必ず見れるよ」とのこと。
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古い記憶の不思議な話
山とは関係ないが、ボクの不思議話もひとつ。
最も古い記憶のひとつに3〜4才のころのものがある。
カンカン照りの真夏の昼間。
目がまわる、って?
おそらく家の裏でひとり遊んでいたんだろうと思うが、急に視界が真っ白のスクリーンに切り替わり、渦巻状のものがグルグル回っているのが見え、体感で10秒ほどで視界が元に戻ったという体験がある。
暑い日に祖母がよく言う「目がまわる」というのはこれかと思ったのを覚えている。
後に正しい意味を知り、じゃあ一体あれはなんだったのかと。
足裏の鈍痛
物心ついたころから、つまりちょうどこの体験をしたころから、右足の裏に指で押すと鈍痛のある箇所があった。
小石なんか踏むと実に不快な鈍痛を感じたものである。
やっかいなのは4年に1回くらい、まともに歩くこともできないほどの激痛が発作的に起こることだ。
これが始まると小石を踏むなどもってのほかで、指で触れるだけでも痛いのである。
症状はたいてい1週間から10日ほど続き、期間中は右足に体重をかけることができず小指側の側面を使って歩いていた。
UFO番組で
ここで興味深い話がある。
とあるUFO番組を見ていたら、同じような体験をした男性が出ていたのだ。
その方は外国人で、子供のころから足のスネの一部に触れるだけで痛い箇所があったという。
そこを避けて靴下をずらして履く少年の写真を番組では紹介していた。
地球上に存在しない物質
専門家の調べで異物が埋まっていることがわかり、手術で取り出してみるとガラス状の小さな塊で、まあそこはUFO番組、地球上に存在しない物質であるという。
男性を逆行催眠にかけたところUFOに連れ去られていることが判明、地球人を監視するためエイリアンが埋め込んだチップだ、という悪ノリな結論は80年代あるあるである。
もうボクが何を言いたいかおわかりだろう。
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そしてUFOファンへ
そう、あの夏のスクリーングルグル体験はUFO連れ去りによるものであり、ボクは右足裏に同様のチップを埋め込まれたのではないか。
それ以来、ボクは矢追純一先生の著書を読み漁り、UFOトークショーにも足を運び、窓からクルマのヘッドライトが差し込めば「すわ!UFO!」となり、ドアのチャイムが鳴れば「いよいよ黒づくめの男か!」とゆんゆんするようになったのである。
驚愕の後日談
ちょっとだけ驚愕する後日談がある。
21歳のころ、例の4年ごとの発作が起きた。
へんな歩き方のせいか、痛い箇所が血マメのように黒っぽく変色した。
飛び出た黒い塊
おぼろげだった変色部分は、次第にしっかりと輪郭のある塊になり、足裏の肉の奥から表皮へと浮き出てくるのだった。
最終的に皮を破って転げ出てきたものは1cmほどの黒くいびつな球体だった。
血マメの塊ならぼろぼろと崩れそうなものだが、表面はツルッとして硬く小石のようである。
エイリアンが埋め込んだチップが出てきた、とボクは思った。
一刻も早くTV局へコンタクトを取りたいがその方法がわからない。
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消えた黒い塊
とりあえず、高校の修学旅行で行った沖縄のビーチで拾ってきたサンゴを入れていた缶に一緒に入れた。
数日後、缶を開けると黒い塊は消えていた。
あるのはサンゴだけ。
やっぱり血マメの塊で崩れてしまったのかとも思ったが、その残骸は微塵も残っていない。
結局なんだったのか、当然だけどいまだにわからない。
確かなのは黒い塊が足裏から出たあの日以来、例の4年ごとの発作は一度も起こっていないということだ。
とても不思議である。
でもまあモヤッとしたままじゃあオチないのでもう一席。
妖怪「べとべとさん」
山の中で後ろから誰かが付いてくる足音がするが、振り返ると誰もいないという話は「山怪」にも出てくる。
これは「べとべとさん」という妖怪で悪さはしない。
「お先どうぞ」と道をあけてやれば足音は消える。
友人の母上は白昼、家から最寄りのスーパーへ行く途中で「べとべとさん」と出会っている。
歩いているとペタペタと後ろを付いてくる者がある。
振り返ると足音は止み、姿はない。
歩き始めるとまたペタペタと付いてくる。
恐くなり駆け出すと、同じ歩幅でペタペタペタペタと追いかけてくる。
サンダルのかかとが剥がれていることに気がついたのは家に帰ってからだそうだ。