京成立石、下町の殺気と良心!もつ焼き「宇ち多”」!

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ウチのお客さんで、デコに「宇」と書いた帽子を被ってくる人がある。

何かのバンドかインディー宗教のグッズなんだろうと思ってたら、東京の呑み屋だという。

メニューがなく、呪文のごとき奇っ怪なオーダーが飛び交い、店員はおしなべて鉄仮面。

一見で注文を通すことはまず不可能と恐れられる「宇ち多”うちだ」という呑み屋を知ったのがこの時。

詳細は語らぬが、ひょんなことからその「宇」の帽子が今ボクの手元にある。

宇ち多”で働くT氏から高知の弐階屋を通じて届けて下さったのだ。

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宇ち多”があるのは東京葛飾区、京成立石。

駅周辺にこぢんまりとまとまった呑み屋街は、戦後の闇市の匂いを今に伝えている。

その街並みをひと目見たいと思い以前、注文を通す自信がないのでハナから入るつもりはなかったが、宇ち多”の店の前まで来たことがある。

一般的な呑み屋の喧騒や活気とは無縁の、殺気と言ってもいい異様な緊張感が路上にまで立ち込めていたのを覚えている。

線路をはさんだ反対側には「呑んべ横丁」なる魔のトポスがあり、これまたクセ強な呑み屋が軒を連ねる。

グッとくるこの立石の街並みも2023年以降、再開発で姿を消すという。

宇ち多”は新しい駅ビルに入ることになるらしい。

新しいのが悪いわけではないが、酔漢の念が集積した今のリアル宇ち多”を体験したいという思いはある。

そうした折、弐階屋、つけSOBAゴクツブシラーメンゴクボシの大将連が連れ立って宇ち多”に行くという。

このチャンスを逃すまいと、ボクも急きょ東京行きを決めた。

宇ち多”の開店は14時。その1時間前の13時から行列に加わった。

並ぶことが滅法嫌いなボクは10分で音を上げそうになる。

離脱してよその店に行こうかと本気で考えたが、はるばる高知から出て来てそれはあまりにアホだろうと辛抱に辛抱を重ねること1時間半、ようやく順番がきた。

状況によっては1人ずつバラバラの席に通されるかもと聞いていたので、1人になっても注文できるようネットで呪文の予習はしてきていた。

「タン生お酢」、「あぶらタレよく焼き」、「しろタレよく焼き」、「おしんこショウガのっけてお酢」と発音もばっちりだ。

が、フタを開ければ家族ゲームよろしく4人全員よこ並びでホッと胸を撫で下ろす。これで注文は他の3人におんぶにだっこでいい。

とまれ、あの殺気の中へ足を踏み入れたことに少し興奮していた。

店内は不思議なテンションに満たされていた。

店員が客におもねることはないし、店員が客に強いることもない。親切でも不親切でもない。互いに同じ立ち位置で均衡を保っている。

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客は慣れたもの、掛け合いの間隙を縫って簡潔に確実に注文を通す。

「すいませーん」とエスクキューズは不要、ズバッと「タン生お酢っ」でいい。

恐い店だと随分と脅されたもんだから、ネットの知ったかぶり客の注文には聞こえないフリをしたり、ソフトな威嚇くらいはあるかもなと覚悟していたが、そのようなことは全くない。

むしろ店員たちの立ち居振る舞いにプロフェッショナルに徹する姿を見た。

店内の凡ゆる動きに無駄がなく研ぎ澄まされていて、うっかり居心地の良さすら感じてしまう。

つまり、よくある頑固で当たりの強い店の接客を、それがうれしいなどと悪ノリでありがたがるような店ではないということだ。

宇ち多”を訪れる客は、一見だろうが世代を超えて通う常連だろうが分け隔てなく対応するという心意気を強く感じる。

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宇ち多”で必ず注文したいサイドメニューが「おしんこショウガのっけてお酢」だ。

おそらく常連客がおしんこを自分好みにカスタムしたものが定番化したのだろう、かなりの頻度で注文が入る。

根が天邪鬼なボクは人と同じ言い方はイヤで「おしんことショウガにお酢かけて」とか「しんこショウガ酢」などとアレンジしようと思っていたが、みな一言一句違えることなく「おしんこショウガのっけてお酢」なのが面白かった。

ネット上に宇ち多”の注文の手引きみたいなサイトがたくさんあるから、みなそれに則っているのかと言えばたぶんそうではない。

おしんこだけでなく焼き物も「アブラタレよく焼き」、「シロ素焼きお酢」、「ガツとアブラ生で1本ずつお酢」、「煮込み白いとことって」など、複雑にカスタマイズが可能である。

注文を正確に店員に伝えるためには発音がぴたり同じであるほうが合理的なのだ。

これが宇ち多”の文法であり公式なのだろう。

ボクは声が小さい上にうんとヘタレなので、彼らと一緒でなければ宇ち多”で呑み喰いすることはできなかったはずだ。

仮にソロで来てファーストドリンクの注文はできたとしても、焼きものの注文はできず、ドリンクの追加もできず、よもや会計の意思すら伝えることができず、空になったビール瓶を睨んで、まんじりともせず閉店を待ったに違いない。

一応左からつけSOBAゴクツブシ弐階屋ラーメンゴクボシの諸氏である。

いずれも引きも切らぬ人気店ゆえ、高知へお越しの際はぜひのれんをくぐっていただきたい。

それにしてもかっこいい呑み屋だった。

今度は自ら注文してみたい。

今回ご縁をいただいた宇ち多”、T氏に感謝。

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