体力的な問題から山越えを含む場合はこれまで、片道100km程度でルートを設定してきた。
そのへんが限界だろうという判断である。むろんチャリの話。
従って高知⇄松山は無理ゲーだったわけだが、急に思い立ってあまりよく考えもせずに決行してきた。
いったいどんな衝動にかられたのか、ほんの数日前の事なのに動機がもう思い出せぬ。
結果正しかったという行動はいつもそう。
フロントに立つ自分ではなく普段はシャドウに隠れた自分、もう1人の自分が背中を押したとしか思えない。
思し召し?知らんけど。
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10月の早朝5:00ってまだ夜だ。寒い。
高知市内を出発していの町にさしかかる頃、ようやく東の空が充血し始めた。
まずは仁淀川を目指す。
波川公園に架かる仁淀川大橋より上流は仁淀川の左岸を国道194号、右岸を県道299号が寄り添うように通っている。
国道194号は寒風山を越えて愛媛県西条市へと至る四国縦断の大動脈で、ダンプやトレーラーがバンバン走る危険な道だ。
クラッシュリスクを負ってまで走るメリットはないので、ボクは右岸の県道299号をマイペースに進む。
やむなく国道194号を走らねばならぬ区間も経て、国道439号のいけがわ439交流館で補給を。
さて、こっから先が知らん道。
国道494号に入り愛媛の久万高原町まで。境野隧道で県境を越える。
国道494号の高知県側の起点である池川集落。
微かなキンモクセイの香りに混じる昭和の残り香。
現役の呑み屋もあったりして、趣きのある街並みである。
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国道494号は狭隘な区間も多々あるが、路面状態は終始良い。
それでいてクルマの往来は少ないのだから歌でも歌いたくなる。
この日は浪漫飛行の知ってるとこだけループ。
こんな奥地にかつて商店があったことに驚く。
「たばこ、日用品、雑貨、藤堂商店」。いわゆるよろず屋である。
今は通るクルマもまばらなこの道に、人の往来があったと想像すると「嗚呼」ってなる。
ここを右へ行けば 椿山 集落へ至る。
最近NHKでも特集された、住民が1人となった限界集落。近いうちに訪れてみたい。
写真撮ってたらクロネコのトラックが上って行った。
最後の住民は何をポチったのだろうと熱くなったが、この先にある集落は椿山だけではないのである。
今回のルートは難渋が予想されるうえ単独行、さらに秋の陽はつるべ落としということもあって出発前は戦々恐々だった。
そこで不安を解消するべく行った対策が、ルートを深く読み込むということである。
全行程を7つのブロックに分けて、それぞれの距離を計測した。
例えば、「スタート〜波川公園、14km」、「波川公園〜水辺の駅あいの里、15km」、「水辺の駅あいの里〜むささび温泉:8.5km」といった具合である。
これにより、チェックポイント間の細かな時間目標が立てられる。
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チャリのロングツーリングにおいて、後半にくる想定外の上り返しほど絶望するものはない。
どこにどの程度の上り返しがあるかをNAVITIMEで描いたルートを頭にたたきこんだ。
こうすることでスタミナ配分や、補給の回数やタイミングを適切に判断できる。
あとは疲労を蓄積させないよう、上りではこまめに休憩をとり、脚にたまった乳酸を散らすようにした。
バカも休み休みというやつだ。
高知→愛媛の県境、境野隧道の到達時刻は正午を想定していたが、その通りピタリ12時前に通過した。
これを下ったら久万高原町。
あとは松山市内まで多少の上り返しこそあれど、基本は下り調子となる。
最後のピーク、三坂峠を越えると松山の街が見えてきた。
旅してきたなあと思える瞬間である。
三坂峠の下りは歩道がなくすこぶる危険。
途中で道路がループするところがあってそこに横道があるので、そこまでの辛抱と思ってたら通行止めでギャフン。
久万高原町の古岩屋の長い上りと、三坂峠の上り返しでしこたまヤられたけど、予定通り17時にチェックイン。
なんだろうこの満足感。
無理ゲーだった松山のはずが、スパスパと切れ味よくイメージ通りのサイクリングだった。
齢50、まだまだ遊べるじゃないか。
余談をひとつ。
ボクは10年以上前に遍路を歩いており、今でも四国内を移動していると遍路道と交差することがあり、口の奥から出てきたゴマみたいに思い出を噛み締めることも多い。
松山からの帰り道、地図を見つつ気の向くままに走っていたら偶然おもしろい場所に出くわした。
久万高原町の中野村集落。その日ボクは45番岩屋寺を目指している道中、まさにこの場所で休憩を取っていた。
そこにたまたま現れたおじさんがコーヒーをお接待してくれ、話してくれた「ロクブさん」の話が強烈に面白かったのである。
おじさんと別れて歩き始めてから、「ロクブさん」の名の由来について聞き忘れたことに気づいたが時すでに遅し。旅路を急ぐ身ゆえに引き返すことは叶わなかった。
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そんなこともあって必ずまた訪れたいと思っていた場所だ。
願わくばおじさんともう一度話してみたかったが、今日とて先を急ぐ身である。
旅とはいつもそういうものだ。
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