【9日目】災難はくりかえす!

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別れの朝

朝テントを片付けているところへアンドウさんが来た。

「今日はどこまで?」

海陽町までが25km、宍喰ししくいまでが33kmだから海陽町までかなあと曖昧にまとまる。

いつものようにアンドウさんが先に出発した。

昨日同宿したミスフィッツのおじさんと一緒に写真を撮った。

写真を送りたいが彼には住所がない。どこかの郵便局止めで送ろうかなどと思案する。

「俺はまだしばらく四国にいる。君は遍路をまわるんだろう?どこかで必ず会うよ」

とおじさんは言う。「道の駅を見つけたら覗いてみてくれ」

ボクたちは再開を願って握手した。

旅の出会いは一期一会。再開することはなかった。

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トラブル①

出発するときになって重大なことが発覚。杖がない。

記憶を巻き戻す。そうだ、昨日銭湯の傘立てに差したままだ。

まだ朝の6時過ぎ、銭湯がオープンのは早くても昼だろう。

杖を放棄して進むわけにいかない。

銭湯に人が来るまで足止めか、もうアンドウさんには追いつけないだろう。

おじさんが「アンドウさんに追い付いたら伝えておくよ」と言ってくれた。

チャリで走ってゆくおじさんを見送った。

彼はいったいどこへ向かうのか。映画「フォレストガンプ」のように歩を止める瞬間は訪れるのだろうか。

一縷の望みをかけて銭湯へ向かう。

もしかしたら清掃で人がいるかも知れない。

ん、希望的観測だろうか、遠目に杖らしきものが玄関に立ててあるように見える。

先っぽの削れ具合、汚れ具合、間違いなくボクの杖だ。嗚呼、救われた。

銭湯の方が忘れ物に気づいて出しておいて下さったのだ。

杖の主が翌朝困るだろうと気をまわしてくれた銭湯の方に感謝である。

補給

国道55号で一山超えて牟岐の街に入る。

この数日ちゃんとしたメシを食っていない。ここらでしっかり食おう。

JR牟岐駅前の「レスト喫茶KIMI」に入る。

豚しょうが焼き定食のメシ大盛りを注文した。

昨夜は野宿でスマホを充電できていない。

お願いして充電させてもらい、満タンになるまで店内の漫画を読んで休んだ。

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ニセの遍路道

牟岐を過ぎるとトンネルが多くなった。

トンネルとトンネルの間にはサーフビーチがあり、まばらにサーファーが浮いていた。

このあたりでニセの道標を見た。

トンネルをくぐらず海側へ出るよう指示している。

あれ、と思ったのは道標がこれまで見たデザインと明らかに違っていたから。

特定の宗教団体の名前も書いてある。

地図で確認するとトンネルを直進であるから、少なくともオフィシャルの遍路道ではないだろう。

トラブル②

いつになく暑い。

空き家の玄関先が日陰になっていた。ここで休憩しよう。

ザックをおろして座りこみ、スマホを取りだして手が滑った。

高さはたいしたことないが、打ちどころが悪かった。

着地の瞬間、シャッターを切るような「パシャ」という音がした。

スマホを取り上げると、全面にクモの巣状のひび。

なかったことにしようといったん顔を上げ景色を見まわす。

再びスマホに目を移すとやっぱりクモの巣。とりあえず再起動……無駄なあがきである。

一応正常に動作はしている。不幸中の幸いである。

画面はムチャクチャ見づらいがこのまま使うよりない。

一歩リードしてみるという選択

沿道にパチンコ屋やクルマ屋が目につき始める。

海陽町に入った。

朝のアンドウさんとの打合せでは今日は海陽町まで。

もうどこかに投宿しただろうか。

ボクは野宿できそうな場所を物色しながら歩いたが、紋切り型の国道風景のなかにそのような場所は見当たらず、やがて海陽町の街を抜けようとしていた。

時間は15時すぎ。次の街、宍喰まで行ってみるか。

あと7km。疲れてはいるが無理ではない。

宍喰まで行けば「道の駅宍喰温泉」があり風呂に入れる。

単純な勘だが野宿場所も海陽町よりは見つけやすい気がした。

それにイシイくんも海陽町までだろうと予想しているので、ちょっとリードしてやろうと思った。

2人の幻

前方を歩く2人の遍路が見える。

シルエットから間違いない、アンドウさんとイシイくんだ。

2人はゆっくり談笑しながら歩いているように見えるので、追いつこうとペースを上げるが逆にどんどん距離をあけられてしまう。

カーブに見え隠れしている内に完全に見失ってしまった。

まるでタヌキに化かされたみたいに。

「道の駅宍喰温泉」に到着。アンドウさんに電話してみる。

すでに宍喰の旅館に投宿したという。やはり先ほど見たのはアンドウさんたちだったか。

とにかく風呂に入りたい。あとでビールでも呑みましょうとだけ伝え、道の駅に隣接する「ホテルリヴィエラ」に行く。

館内は森進一「冬のリヴィエラ」のオルゴールバージョンがリピート再生されていた。

ロビーで入浴料を払いザックを預かってもらうと、棚に黒いザックと菅笠が見えた。

イシイくんのだ。やっぱり2人は連れ立って宍喰まで来ていたのである。

もし海陽町で野宿していたら出遅れるところだった。

浴室は2階で全面太平洋ビュー。

浴室内でイシイくんの姿を探すが見当たらない。入れ違いで出てしまったか。

野宿地を探す

風呂を出る。ロビーの棚からイシイくんのザックが消えてる。

「ホテルリヴィエラ」にランドリーはないので洗濯を諦めて野宿地を探す。

ロビーで尋ねてみると、道の駅内は野宿禁止、裏にある公園で野宿している遍路がいると教えてくれた。

世間は3連休で駐車場はクルマでいっぱいだった。

ほとんどがサーファーだ。

皆ワンボックスカーの荷台を車中泊仕様に改造してある。

中で本を読んだり、携帯をいじったりして、開いたハッチバックには水着を干してあった。

後に聞いた話では、「道の駅宍喰温泉」は車中泊のサーファーには何も言わないが、野宿する遍路には厳しいらしい。

サーファーが波の様子を見ていた。

やや波が高い。台風が近づいている。

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苦手な感じ

近くに遍路小屋があることを知っていたので様子を見に行く。

前を歩く遍路がいる。歩き方がイシイくんである。

風呂を出て同じように遍路小屋の様子を見に行くところなんだろう。

後ろから大声で呼びかけるが波の音にかき消された。

遍路小屋は高床式。下にチャリが1台停まってる。

上へ上がると若い遍路が2人いた。

イシイくんだと思っていたのは別人だった。

もう1人はチャリ主でずんぐりしたギョロ目の人。

野宿するなら遍路小屋は2人で満杯だ。付近にテントを張るスペースもない。

「ここに泊まるんですか」と2人に尋ねてみる。

「裏の公園で野宿できるらしいですが、今はまだ人が多いので考え中です」とギョロ目のほうが言った。イシイくんだと思っていたほうはボクと目を合わせない。

ボクは2人を苦手に感じ、その場を離れた。

野宿場所の候補が1つ消えたことで焦りを覚える。裏の公園がダメなら気持ちが折れる。

アンドウさんの宿に便乗しようかと甘えがよぎる。

金を払えば全て解決だ。洗濯もできるし涼しい部屋で無防備にビールが呑める。

今夜の寝床

裏の公園は広々としていた。

山側は草ぼうぼうで蚊その他、虫の気配が濃厚である。

散歩中の地元のおばさんがいたので野宿地について聞いてみる。

「あのへんでしたらいい」と指差すのは草ぼうぼうのエリア。

「あそこでもできるし、あそこでもできる」と矢継ぎ早に言うのでイライラした。

池の上を渡すボードウォークにベンチがあった。野宿地にベンチがあると荷物を置いたり何かと便利である。

今夜の寝床が決まった。

アンドウさんと合流。ミスフィッツのおじさんからボクが杖を忘れたことを聞いたときは「どうなることかと思ったよ」と言う。

テントを組み、マットと枕に空気を入れてベッドメイキング。

これで寝るまで自由時間である。今夜は宍喰で花火大会もあるらしい。

コンビニでメシとビールを買い、海辺でアンドウさんと乾杯。

水平線に満月が上った。

イシイくんから「今、宍喰に着いた」と連絡。

ボクらのいる場所を伝えて3人で乾杯していたら花火があがった。

アンドウさんは宿へ、ボクとイシイくんは花火を見上げながら野宿場所へ向かう。

イシイくんはテントを持たないのでベンチに寝るという。

昆虫たちが吟じる声にかすかに波の音が混じっている。

テントの外でイシイくんの息づかいが聞こえる。

台風が少し気になっている。

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