ここ2週間ほどテクノがマイブームだ。
テクノは同じく90年代に勃興したヒップホップ/R&Bと比べると、クラシック的な盤が実はそう多くない。
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それでも四半世紀にわたる歴史のなかで、エバーグリーンの名作は産まれ聴き継がれている。
冬はテクノを聴くのにいい季節である。
気温が下がれば空気中から不純な匂いが消えてぴんと張り詰める。
そこに繊細な電子音がよく合う。
テクノの最大の魅力である音の構造美がよりクリアに鳴り、その裏側まで透けて見える気がするのだ。
選出の基準としては、冬将軍到来のクッソ寒い日に、薪ストーブのあるカフェで聴きたいものというイメージで選んだ。
冷えた体を薪ストーブで火照らせて、ビールでまた冷やすというシチュエーションがベター。
大音量よりむしろ抑え気味のボリュームで聴ききたい’90年代テクノ・クラシックス5選である。
Contents
Sun Electric 「Kitchen」
ドイツの2人組み、サンエレクトリックの1stアルバム。
レーベルはR&S、93年作。
当時、ダンスに特化したハードなテクノに対し、踊るアホウのカウンターとして「インテリジェントテクノ」という動きがあった。
爆音のクラブよりも自室で聴きこむタイプのテクノで、ルームフレグランスのように流すアンビエントミュージックよりも聴くという積極性が強い。
引き合いに出されることこそ少ないが、本作は紛れもないインテリジェントテクノの名盤である。
どれか1曲試し聴きするなら11.「Beauty O’locco」を。
美しいアートワークはデザイナーズリパブリックによるもの。
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Model500 「Sonic Sunset」
デトロイトテクノの先達、ホワン・アトキンスの「Model500」名義でのEP。
レーベルはR&S、94年作。
収録曲すべてが名曲だが、特に好きなのは3.「Neptune」。
寄せては返すさざ波のような反復が12分にわたって展開する。
オリジナル盤は宇宙遊泳のようなアートワークで、Apple Musicなどにあるのはリマスター盤のジャケ。
Richard H Kirk 「Virtual State」
イギリスの工業都市シェフィールドのインダストリアルミュージックバンド、キャバレー・ボルテールのメンバーのソロ作。
レーベルは同じシェフィールドのテクノの名門ワープ、94年作。
インダストリアル趣味の不気味なアートワークとは裏腹に、繊細な電子音で綴る荘厳なテクノタペストリーである。
ワープの看板アーティスト、エイフェックスツインやオウテカのような話題性はなかったが、レーベルの隠れた名盤といえる。
試し聴きするなら7.「Velodrome」がこのアーティストの個性がよく出ている。
3.「Come」や8.「Soul Catcher」のトライバルな雰囲気がこのアルバムにミステリアスな奥行きを与えている。
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Kenny Larkin 「Azimuth」
ホワン・アトキンスらに続くデトロイトテクノ第二世代、元コメディアンという経歴をもつケニー・ラーキンの1stアルバム。
レーベルはワープ、94年作。
カシュカシュとした感触のメタリックな電子音、触れればたちまち崩れてしまいそうな繊細なテクノ。
それにしてもデトロイトテクノのアーティストはそのイカついルックスと、星を見て涙を流すかのようなロマンチシズムとのギャップがすごい。
個人的にはレコードとCDでも所有していて、かれこれ20年以上コンスタントに聴き続けているオールタイムフェイバリット盤である。
試し聴きするならタイトル曲2.「Azimuth」、6.「Harmonics」あたりがオススメ。
池田亮司 「+/−」
京都のメディアアートパフォーマンス集団ダムタイプの音楽家、池田亮司のアルバム。
イギリスのノイズ/実験音楽のレーベルTouchより、96年作。
テクノの枠から逸脱して、超音波、パルス音、ホワイトノイズを整然と並べた音響芸術である。
リズム、メロディ、ハーモニーという音楽の三大要素のいずれも存在しない異形の音楽。
しかし身を切るほどに美しい極寒の音楽。