子供のころ、誰から教わるでもなく性に目覚めるように、外的影響の及ばないところで惹かれたのが鉄道の廃線である。
原体験は沿線に実家がある近鉄奈良線。
生駒駅と東生駒駅の間に短いトンネルがあるのだが、並行して旧トンネルが残っており、本線から枝分かれして廃線跡も残っていた。
激しく錆びていたことからボクは「茶色い線路」と呼び、食い入るように車窓から見入った記憶がある。
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ボクらの世代だとインターネットが普及し始めたのが20代後半、ボク自身使うようになったのは30歳を過ぎてからである。
だからそれまで廃線趣味の人間がボク以外にいるとは想像もしなかったわけで、本屋で鉄道廃線跡を歩く(宮脇 俊三著)という本を見かけたときは驚きいうか、同胞に出会えた喜びが大きかった。
紹介されていた全国の廃線跡のなかでも、特に印象に残ったのが岡山県にある下津井電鉄の廃線跡である。
著者が丹念に廃線跡を歩くルポが掲載されていて、遺構も少なからず残っているらしかった。
当然ボクも歩いてみたいと思ったが、バイトすら人並みに努まらぬ若かりし社会不適合者にとって下津井は金銭的に果てしなく遠かった。
年月を経ても行きたい場所リストから外れることはなく、今回岡山に用があったのを機に訪ねてみた。
廃線跡は遊歩道として整備されており、駅のホームがいくつか残されている。
そのなかの琴海 駅跡を訪れた。
瀬戸大橋に続く高速道路をくぐり、、、
現役のJR瀬戸大橋線のさらに海側を下津井電鉄は走っていた。
今も変わらぬ瀬戸内の多島美が、風光明媚な路線だった往時を偲ばせる。
個人的には30年越しの悲願、感無量である。
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下津井に来たなら、もう一つ訪れたい場所がある。
瀬戸大橋のガチたもとにある銭湯「大黒湯」。
近年は廃線跡よりも、こうしたレガシー銭湯や破 れ酒場のほうに興味があるな。
子供のころに見た不良の大人が屯 する場所とでも言おうか。
営業時間の情報がネットで錯綜しており、おおむね17:00前後から20:00前後までとのこと。
この日は18:00すぎに入ったボクが最後の客だったらしく、19:00前にはのれんを下ろされていた(2023年9月)。
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場所柄、ゆきずりの者が入る銭湯ではない。
地元の決まった客のために日々湯を沸かし、おそらくは常連さんが全員入った時点で札止めとしているのだろう。
脱衣所に置いてあるシャンプーやボディソープは自由に使っていいのだが、その数と銘柄のバラバラさに不自然を感じ、もしかしてお亡くなりになった常連さんの置き土産なのかもと想像した。
湯を求める常連さんがいる限り沸かし続けるという大黒湯の気概を見た思いである。
瀬戸大橋のアスファルトの継ぎ目をクルマが通過するときの、ゴトゴトという音を頭上に聞きながら湯に浸かる。
瀬戸大橋ができた当初は迷惑なノイズでしかなかったろうが、その大橋も大黒湯と同じように歳食って馴染んでくれば、これほどの風情を醸すのだからいとおかしである。
なお、脱衣所ならびに浴室の撮影は女将さんの承認済である。
玄関を出れば目の前に瀬戸大橋。
瀬戸大橋も上を走るだけじゃなく、こうして下から見上げると旅情あるな。
さて、 下津井に来たなら一杯ひっかけたい店がある。
下津井と言えばタコ。
完全タコ縛りのコースが食える保乃家さんだったが、前日から何度も電話しているのにいっこうに繋がらず。
念のため店まで来てみるも、やはり閉まってた。
ここはまたリベンジで。