夫婦は「ひやあつ」でうまくいく!各々別の方向を向け!

登山家、栗城史多さんの訃報が伝えられた。

一時期よくテレビ出演されていたのを覚えている。

彼が行ったような高所登山では隊員同士をロープで繋いで特に切り立った稜線では、万一前を歩く者が左に落ちたらば即座に後ろの者が右に飛び降りてバランスをとり、滑落を防ぐという話を聞いたことがある。

夫婦の行動指針も常にそうあるべきだよなあとつくづく思う。

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片や熱くなれば、片や冷静に努める。

片や右に気を取れらていれば、片や左を注視する。

片やポジティブに過ぎるときは、片や足元を見つめる。

夫婦とは一対の存在で、太極図のようなバランス感覚が大切だと思っている。

まあこれは一種のダンディズムであって倫理ではないのだが、バランスを欠いて暴走する最悪の例がモンスターペアレントだとするならダンディズムもバカにしたものではあるまい。

印象深い話がある。

7年前に四国遍路を歩いた際、徳島にある12番札所焼山寺へ向かう山中で出会ったご夫婦のことだ。

ここに自分が書いた紀行文がある。

少し長いが、そのまま引用しておきたい。

遍路地図を見ると12番焼山寺までの山中にはだいたい3kmおきに大きなお堂がある。
1つ目のお堂、長戸庵に着いた。

ハイキング中のご夫婦が休憩していた。挨拶し私もベンチに座る。
「お遍路してんの?えらいなあ。どこから来たん?」と奥さんがメロンパンを手渡そうとした。大阪からですと言いながら私は遠慮したが、「余りそうやから、食べて」と言う。

奥さんが社交的でチャキチャキした人なのに対して、ご主人はニコニコとして寡黙だった。

「若いからすぐに追いつかれるかもなあ」。そう奥さんが言いながら2人は先に発った。
山に入って何度かヘビを見かけたがマムシではないようだった。それよりもトカゲがやたらと多かった。

山道が途切れ崖状の地形に出た。階段状に小道がつけられている。ここを下るようだ。染み出る湧き水に滑らぬようゆっくりと下った。下り切った所が2つ目のお堂、柳水庵だった。

さきほどのご主人がベンチで昼寝していた。ここで昼飯にしたのだろう。奥さんの姿は見えない。

私に気づいたご主人がむくりと起き上がり会話が始まった。
時間は丁度正午。私もちらし寿司でお昼にした。食べながらご主人の話を聞いた。

この柳水庵も以前は管理人がいて遍路が泊まれるようになっていた事、腰を痛めたのをきっかけに奥さんとトレッキングをするようになった事、家は徳島市内である事、柳水庵で折り返して帰るのがご夫婦の定番のコースである事。そういった事を先ほどとは別人のように冗舌に語った。

彼にとって奥さんといる時は奥さんがスポークスマンだ。夫婦揃って喋る事を嫌い寡黙な旦那を演出する。1人でいる時は自由に個人を解放する。それもまたダンディズムである。

奥さんがナイロン袋いっぱいに松ぼっくりを入れて戻ってきた。私の姿を見るや「あっ」と明るい声を出した。入れ替わるようにご主人はダンディズムの殻に戻った。松ぼっくりは植木鉢に蒔くらしい。

奥さんが言う。「焼山寺さんはセコいけんねえ。まだまだ頑張らんといかんねえ」

「セコい」の意味がようやくわかり「セコいってしんどいっていう意味ですか」と確認した。
「あ、大阪でセコい言うたら意味違うよねえ」

奥さんがご主人に帰り支度を促した。そろそろ帰るらしい。
「この人腰痛めてねえ、それで山登り始めたんよ。お父さんにもまだまだ頑張ってもらわなあかんからねえ。ほら、鉢巻きして」。

ご主人は「あー」とか「うーむ」とか言いながら汗止めの鉢巻きを頭に巻いた。
去り際に奥さんが言った。
「徳島に来てくれてありがとうね。焼山寺下りたら市内のほう通るやろ?また会うかも知れへんね」

2人は元来た崖を登って行った。私はその姿をしばらく眺めていた。素朴で平和で、得ようとしても得られない夫婦の光景だと思った。

そしてまた私は1人になった。

うどんに例えれば「ひやあつ」がベストバランスなのかもね。

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