クルマを30分も走らせて、こうした名もなき破れ食堂へおもむく行為は、我ながらに酔狂を通りこした奇行だと自嘲するほかない。
通常なら飲食店におもむく目的は空腹を満たさんがため、美味を味わわんがためであろう。
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ボクがこうした破れ食堂、あるいは限界酒場、チイチイパッパ喫茶店などにおもむく目的は少し違っていて、まずあるのは「この店内を体感してみたい」という強い欲求、例えるならインスタレーションアートに接するのに近い感覚である。
店内の腐った壁に触れ、破れたイスのスポンジの中にいにしえの10円玉を発掘し、積年で増殖し続ける鍾乳石のごとき民芸品やファンシーグッズを愛で、アンシェントな空気を吸い吸い、曇ったグラスに瓶ビールを注ぎたいのである。
基本的には店に入るための注文だから味は二の次、美味けりゃラッキー不味けりゃそれはそれでいとおかしというわけで、とんねるずの「きたなシュラン」のアプローチとも少し違う。
しかもグルメブロガーが席巻する高知のブログ界において、この手のお店はほぼ手付かずのブルーオーシャンだ。
ボクはある種の使命感をもってこの手のお店をディグっている。
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さて本題、ここは名もなき食堂なんかではなくて土佐市にある「田原食堂」。
場所は有名なパン屋イワゴーさんの目と鼻の先。
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2014年に撮影されたストリートビューを見るとかなりの破れっぷりである。
老夫婦で営まれているが、この段で装飾テントを新調したということはまだまだ現役のモチベーションを崩されていないご様子。
店内はカウンターが3席、4人掛けテーブルが2卓の小所帯。
カウンターは雑貨や調味料、作りかけのマカロニサラダなどが雑然と置いてあって全席死んでおり使えない。
テーブルは1卓に絶賛昼呑み中のネイティブコンビ、もう1卓は遅い昼休憩をとるネイティブ。
後者が親切にも席をあけてくれ、座ることができた。
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ボクは親子丼とぶた汁。
どうやら親爺のしくじりがあったようでやたらとツユダク、が味は悪くない。
特にコメは美味し。
これがぶた汁。
単品で200円とけっこうお高い。
破れ食堂をディグるときにいつも参考にしてるサイト激渋食堂メモでも書かれていたが、古い大衆食堂ではなぜかそれだけ他のメニューの相場に比べて高い一品に出くわすことがある。
カツ丼600円に対しハムサラダが500円みたいな。
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田原食堂の開業準備でてんやわんやの若き日の老夫婦を想像する。
目の回る忙しさのなか、数十あるメニューの値段をひとつひとつ決める作業。
アレがなんぼでコレがなんぼでもうなにがなにやらようわからんと捨て鉢で設定した値段。
開業直後のフルブースト期も落ち着きを見せたころ、「お父さん、やっぱりぶた汁に200円はないわ」と女将がクレームを入れるものの、すでにぶた汁は想定外の人気サイドメニューになっており、今さら適正価格にすれば売上に響くことは女将も承知の上。
「五目そばは500円でけっこう原価かかってんねんで!赤や赤!それでとんとんでええんと違うか」と親爺。
「それもそやね」なんてなことでついぞ書きかえられることのなかった値段。
とまあそんな背景が横たわった上でのぶた汁200円ではなかろうか。
カミさんは卵焼き、飯、ぶた汁の単品トリオで。
「サラダ食べる?」
きた!女将のきまぐれメニュー!
カウンターに作りかけで鎮座してたやつ!
さてこれが会計に含まれるのか否か。
食堂千壽のあのパターンである。
計算してみたら20円合わなかったとさ。
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