ブラックドッグ (Black Dog)はエド、アンディ、ケンの3人で結成されたイギリスのテクノユニットである。
90年代はじめに台頭したデトロイトテクノの、英国解釈の急先鋒といわれた。
-->
しかし、1995年の3rdアルバム「Spanners」を最後に、エドとアンディは脱退しプラッドを結成。
以降、ブラックドッグはケンのソロプロジェクトとなる。
ブラックドッグの音楽はバキバキに踊れるテクノではない。
当時の言い方で言うと「四つ打ち」ではない。
レコードレーベル「Warp」が「AI (アーティフィシャルインテリジェンス)」シリーズで打ち出したインテリジェントテクノ (今でいうとIDMか)と呼ばれた音楽である。
享楽的なハードテクノのカウンターとして、ダウンテンポでアトモスフェリックな「かしこ」なテクノといったところか。
ヒップホップやダブの作法も踏まえつつ、チキチキ、カシカシとした感触の電子音が微振動するように複雑なリズムを刻む。
繊細な音感はデトロイトテクノ第2世代のケニー・ラーキンに通じ、ダークでヘビーなムードはのちのマッシブアタックに通じている。
-->
90年代のテクノは勢いがあったが、そのぶん流行り廃りも非常に激しく、作り手も聴き手も極度に消費的であった。
だからか、20年後の今も聴くに耐えるテクノクラシックというのは実は少ない。
この「Spanners」は、名盤と名高い「ブラックドッグ・プロダクションズ」名義での1stアルバム「Bytes」と並んで堂々テクノクラシックと言っていい。
ちなみに「ブラックドッグ」の名の由来はイギリスのダークな伝承で、不吉の妖精とされる黒い犬である。
ジャケットでは三つ首になったブラックドッグの首が、おのおの別の方向を向いたデザインになっており、足下に置かれた「スパナ」が暗示的である。
メンバー3人から1人になることで「ブラックドッグ・プロダクションズ」から「ブラックドッグ」に名義を変えたたわけだが、この「Spanners」はまだ3人での制作にもかかわらず、名義はすでにブラックドッグになってる。
そのあたり一悶着あった感が滲んでいる。
「スパナ」はねじったりひねったりする工具のこと。
英語では「厄介な問題」という意味もあるそうで、当人の思惑からずれてねじってひねられた作品にはなぜか名盤が多い。