アツシくんのことは最初、外国人だと思っていた。
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高知に移住して間もない頃、「ヴィレッジ」という野外の物販飲食イベントがあり、そこにDadaNutsButterが出店していた。
揃いの赤のセットアップでキメたスタッフの中のアツシくんは日本人離れしていて、ボクには南米の若者に見えた。
こんなアッパーな人種と交じり合うことはないだろうなと思った。
それから後、大衆酒場Day&Seaをオープンすると3F_kochiのユタカくんとマサミちゃんが「ダダのアツシ」といって紹介してくれたのである。
ちょくちょく寄ってくれるようになって、アツシくんが赤のセットアップ姿で現れたときは出歯亀根性で写メに撮ったものである。
なんだか恐れ多くて、やはり交じり合うことはないなと思ったけど、とりあえず南米人ではなかった。
アツシくんは今春、東京へ拠点を移す。
これを書いている時点で明後日には高知を発つ。
動機や目的を尋ねてみても曖昧で、仕事どころか家すら決まらないままの旅立ちだという。
おそらく本人のなかでは言葉で言い表せぬ衝動が不定形に渦巻いているのであり、心の羅針盤が指しているのは紛うことなき東京なのだろう。
自己反乱を起こせず、行動に理由付けが必要な人間はそこから一歩も動けない。
老いはそこから始まる。
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3F_kochiのバーに行けばいつもアツシくんがいて、そこには華やぎがあった。
季節が巡ればあるいは、また同じ場所で咲くことがあるのやも知れぬ。
高知を離れる前にゆっくりメシでも、とボクら夫婦とアツシくんとでハシゴ酒2軒目。
「人生別れ豆」なる珍奇なメニューを注文した。
おぼろ豆腐と納豆を和えたもので、大豆の行くすえを人生になぞらえた言葉遊びである。
そう言えばボクの人生別れはどこだったか。
ボクは豆腐になったのか納豆になったのか。
アツシくんは東京でローリングストーンしてどちらへ転がるのか。
いずれにせよこうして交じり合うのだから人生は面白い。