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見知らぬ街に逃避行したい
仕事を辞めて、あるいは休職でもいい。
全く知らない街に1ヶ月ばかり住んでみたいと思ったことはないか。
ボクはメッチャある。
レオパレスのマンスリーマンションかなんかに仮の住まいを構えるわけだ。
旅行の延長ではだめ。
仮にでも「住む」ことが肝要だから、生活のルーティンも必要になってくる。
決まったスーパーで食材を買い、ポイントを貯める。
コインランドリーで洗濯し、コンビニでビールを買って帰る。
そのコンビニでバイトを始めたりして、バイト女子とライトな恋をしたりして。
そして1ヶ月後にはハタと姿を消し、元の生活へと戻るわけ。
若い頃、こんなバカげた逃避妄想によく耽っていた。
そんな時なんとなく想定していたのが「群馬県にある聞いたこともない市」、だった。
今回の街ポテは栃木県だが、北関東のこの辺りってことでイメージが一致する。
てことで、今回は栃木県、足利市をネット逍遥します。
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【1】たびするおでん もっくもっく
かつてどの駅前にあった「観光案内所」てのは今は過去の遺物、すでにその役割を終えてる。
今なら「道の駅」へ行ったほうが、その土地の情報は充実しているだろう。
最近はさらに進んで個人の飲食店がそうした役割を担いつつある。
地方では今、「街のクロスポイント」を意識した飲食店が増えているのだ。
「もっくもっく」は2017年9月オープンのおでん屋さん。
おでんの提供は17時からだがお店は14時にオープンして、仕込みをしながら観光客の休憩所として開放しているというから、まさに「街のクロスポイント」と言える。
ここを一番に紹介した理由は、そう、足利に着いてまずご挨拶の一杯をここに決めたから。
ご主人は足利出身で、東京からのUターンとのこと。
昼ビールを呑りつつ、ネイティブが語る濃ゆい足利ネタに身震いしたい。
おでん好きだから、夜にもまた来てしまいそうだな。
【2】ごはん処勉強亭本店
カタクリ粉と玉ネギだけで作ったご当地グルメ、足利シューマイ。
ソースをかけて食べる。
足利市、桐生市、佐野市といった両毛地方はソース文化圏であり、カツ丼もソースである。
勉強亭ではこの足利シューマイを特に「からりこシューマイ」と呼んでおり、ソースカツ丼とセットになった「からりこセット」がある。
足利市は繊維業で栄えた街だ。
「からりこ」とは機織りの機械が回る音に由来する。
【3】食事処ホクシンケン
創業は大正というから昭和レトロどころでない。
右側にある取ってつけたような三角小屋も気になる。
ラーメン、オムライスなど、大衆食堂メニューはひと通り揃っているが、ハンバーグとショウガ焼肉が推し。
ショウガ焼肉は、モヤシ入りの豚ショウガ焼きである。
激渋食堂メモによると店の始まりは、初代が明治期に引いていた屋台らしい。
その屋号が「北清軒(ホクシンケン)」だった。
「北清」はラーメン作りを教えてくれた中国人の出身地から取ったようだが、カタカナになるとどうにも「北斗の拳」を彷彿する。
2017年公開、藤原竜也主演の映画「22年目の告白 -私が殺人犯です-」のロケ地にもなった。
【4】世界(定食屋)
以前は「世界肉店」という精肉店、今は定食屋。
なのでメニューもトンカツやメンチカツなど肉系のラインナップ。
両毛名物ソースカツ丼の上に、メンチカツ単品をトッピングしたりもできる。
足利はド渋い食堂が多いうえに、各店のキャラが立っていていいね。
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【5】富士屋(食事/喫茶)
店内はエンジ色を貴重とした純喫茶風。
メニューは大衆食堂と聞いて思い浮かべるものひと通りと、コーヒーやクリームソーダなどの喫茶メニュー、パフェやあんみつなど甘味処メニュー、そしてビールと、さながら昭和のデパートメントの最上階のレストランのようである。
店内にはチケット売り場があり、そこで食券を買うシステムというのもデパートメントチックでしびれる。
平成現在はチケットは発券されず、前払いレジとしてのみの機能なのは残念である。
店頭で売られる大判焼きのような「自慢焼」なるスイーツも名物。
【6】はとや(お好み焼き/甘味)
足利の観光スポット鑁阿寺(ばんなじ)の門前にあるお好み焼きと甘味の店。
関西出身のご主人が考案したという、たい焼きの中にお好み焼きを入れた「お好みたい焼き」は非常に珍しい。
両毛地方はソース文化圏ということ、そしてジャガイモの産地でもあるということで、当然のように焼きそばにジャガイモが入る。
ここ「はとや」でも、ごろごろとジャガイモが入ったポテト焼きそばが食べられる。
【7】岡田のパンヂュウ
まず「パンヂュウ」とはなんぞや?
見た目はジャンボたこ焼きくらいのドーム型、外カリ中フワのホットケーキのような生地、中身は塩味の効いたこしあんである。
そう、パン生地のまんじゅう、ってことで「パンヂュウ」でなのである。
3個100円。
神社の境内に出る屋台ってのが縁日みたいでいい。
お向かいの蔵王食堂も気になりますな。
【8】カフェアラジン
ナガオカケンメイのD&DEPARTMENTの観光ガイドでも紹介されているこちら。
なんと40年以上も続くコーヒーの屋台である。
17時からの営業で、メニューは1杯400円のコーヒーのみ。
戦前に外国船の料理人をしていた先代が、寄港した中近東でみたコーヒースタンドに憧れて始めたお店である。
今はその息子さんが引き継いでいる。
出店場所は目印となる欅の木があるここに先代が決めたのだとか。
営業は天候に左右されるため、行かれる場合は事前にTwitterをチェック。
【9】大衆酒蔵庄家
アタリの匂いしかしないお店。
ネット情報は少ないが、おでん1品50円という時点でアタリ確定である。
ガラッと戸をあけて吉田類が出て来そうなムードがある。
個人的には外せないお店。
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【10】駅前名店街
渡良瀬川のほとりに取り残されたような魔窟ビル。
昼なお暗い通路の奥に、スナックや居酒屋がひしめいてる。
とりわけジンギスカン、焼きそばの「稲穂」が気になって仕方ない。
とりあえず食べログには載ってない。
【11】花の湯
かつては花街であったこの界隈で、ランドマークとして堂々威光を放っていたであろう銭湯。
2016年公開、宮沢りえ主演の映画「湯を沸かすほどの熱い愛」のロケ地になったのもうなずける凜とした佇まい。
先述の「もっくもっく」や「大衆酒蔵庄家」もすぐ近くなので、ざぶっと湯を浴びたら一杯目は地酒を冷やで、てな寸法でどうですやろ?
とまれ「花の湯」とボクのお互いに現役のうちに行っておきたい銭湯である。
【12】ゲストハウス松香庵
素泊まり2600円。
時期によって冷暖房費として200円がプラスされる。
女性向けのドミトリーだが、希望日の5日前に女性の予約がない場合は男性も利用可である。
なんとなくその隙間を狙って泊まってみたくなる宿。
編集後記
文中に出てきた両毛地方の「両毛」って気になりませんでした?
JRも「両毛線」だし。
ボクは気になったなあ、なんかコミカルな感じがして。
ウィキペディアによると、現在の群馬県と栃木県にまたがるエリアを「両毛」を呼ぶそう。
群馬県が上毛野国(かみつけのくに)、栃木県が下毛野国(しもつけのくに)、つまりダブル毛のくにで「両毛」というわけ。
両毛地方はソース文化圏であり、ジャガイモの産地とすでに述べた。
足利のお隣、佐野市発祥と言われるご当地グルメに「いもフライ」がある。
まあジャガイモの串カツなのだが、酒のアテではなくオヤツとして食べるのが串カツと違うところ。
1本40円くらいから売ってる。
で、いもフライにかけるのが地ソースである「ミツハソース」か「マドロスソース」、もしくはそのブレンドである。
足利市が繊維業で栄えた頃、労働力を支えたのがいもフライであり、勉強亭のからりこシューマイなのだろう。
どの街にも必ず何かで栄えた時代があって、またその名残がある。
そこには旅情をそそる何かがあるし、行ったことのない街を愛おしくもさせるのだ。