昼は廃墟にしか見えぬ店に夜になると灯りが灯る。
そんなおとぎの国のような話が高知にはままある。
見てよこの破れ具合。
「破れ」というのはもちろん揶揄ではなくて、ボクにとっては憧憬とも言えるもの。中でもここは破れ酒場の極北であろう。
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屋号を「秋女」という。
果たしてなんと読むのか、どのような意味なのか。いざ入店。
店内はもぬけの殻、誰もいない、呼びかけるが応答はない。
「お客さんを家まで送ってきた」とは、数分後店に戻ってきたママさんである。
21:00の閉店まであと30分ほどだったが1杯だけ呑ませてもらった。
屋号の「秋女」は「あきめ」と読むそうな。
この店の初代ママにして、現ママの実のお母さんの本名が「秋女」と書いて「あきじょ」さんだったらしい。
屋号にするのにそのまんまというのもアレだからと、読みだけ変えて「秋女」としたのだそう。
看板に記された紋は、ママさんの家の家紋である。
矍鑠としてよく喋るママさんである。18の頃から客商売をなさっていると言い「お客さんとは政治、宗教、好きな球団の話はせられん」とのこと。
ママさんもボクらのことを嫌客じゃないと思ってくれたのか、チョコやら近所の人からもらったという惣菜なんかを出してきて食えという。1杯のつもりが2杯になり閉店時間も大幅に過ぎてしまった。
初めての店とは思えないほど居心地が良く、外観とのギャップもあって気分は上々である。
「ジャコごはん食うかー?」と言うのでお願いした。
混ぜご飯ではなく油で炒めてしょうゆで味付けしたシンプルなもの。これがやたらと美味いのだ。
メニューには載ってないけど言えば作ってくれるとのこと。
鬼が出るか蛇が出るか。そんな気持ちだったけど、フタを開けてみればなんのことはない。喋りの達者な元気なママさんがいるとてもイケてる破れ酒場だった。
昔菜園場の商店街に看板も出さずただの家にしか見えない「つつい(?)」という居酒屋があったという話が面白かったな。