ふたむかし前ごろまでは高知市内にも相当数の角打ちがあったらしい。
角打ちとは平たくいえば酒屋のイートインで、買った酒をその場で呑めるよう店内にカウンターなどを誂えた簡易な呑ませ処のことである。
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角打ちというトポスが醸す悪所感は魅力である。
流れ者、はぐれ者、ブルーカラー、廃サラリーマン、エセ思想家、ウッドストック帰りと嘯く不良たちが混然となって安酒をあおる店先は子供心に憧憬だった。
高知市内に今も現役の角打ちがあることはほとんど知られていない。
新しい物好きと言われる高知県民にとって、続々と参入してくる全国チェーンは確かに魅力があるが時にはルーツを振り返り、古刹を愛でるように店内に身を置いてみるのも一興である。
酒屋の奥にカウンターとイスがあった。ここが角打ちゾーンらしい。
女将さんに無用の警戒を与えぬよう、「カウンターで呑ませてもろてかまんですか」と慣れない土佐弁それでいて好青年的トーンで尋ねてみる。
「あんたらハタチまわっとるやろね」と女将さん。
ナイス返しで認証をもらいパシュッと呑みスタート。
カウンターの向こうが居間という違和感。
別の場所の写真をコラージュしたみたいで現実味がない。
常連さんがすぐ隣でBBQをされているようで、飲み物の調達で頻繁に店を出入りしていく。
その都度、その回の奢り主の名を告げ、女将さんは複雑怪奇な伝票に書き込んでゆく。
若者がハーゲンダッツを手土産に女将さんを訪ねてくる。
限界酒場とも言えるこの角打ちに、よもや活きたコミュニティがあるとは思わなかった。
快く出迎えてくれ、一見のボクらともよく話してくれ、気持ちよく呑ませてくれた女将さんに感謝である。
行ってみようとする物好きがそうそういるとも思えんが、店名や場所はあえて伏せておきたい。
高知のどこかに実在する桃源郷のような酒場である。