※長文記事になります。だいたい5〜7分ほどで読めます。
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酷道ヨサク、徳島区間
「酷道ヨサク」こと「国道439号」の徳島区間をクルマで走破してきた。
いや、厳密には起点スタートじゃないから走破したとは言えんが、杓子定規なこと言いなさんな。
四国の、とりわけボクの住む高知はちょっと山に入ると途端に道が狭くなる。
移住当初は、対向車来ないで〜と神頼みだったが、今ではまあなんとかなるかと開き直れるくらいには慣れたから、酷道439と言えど目玉ひんむくような場面は少なかった。
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片側2車線のゆとり国道に慣れたシティボーイたちは精神的にヤラれること請け合いである。
ヒリつく空気
もはや林道にしか見えぬ。これが国道である。ガードレールはない。
慣れたとはいえ、それでも酷道ヨサクの怪峰剣山を含むこの区間のヒリついた空気には身を切られるような思いがした。
人外境のメシ屋
徳島市街にある起点から剣山までは国道438号と共有区間となる。
神山町を過ぎるとすぐに酷道らしい光景になるが、人外境のロードサイドにメシ屋が続けて2軒もあるのには驚いた。
それが神山シャングリ・ラ園とおお峰食堂である。
「仙人が経営してま〜す」なノリではなく、どちらも街中にあっても違和感のないポップな店なのが逆に凄みがある。
砂防ダム
谷に楔を打つ大迫力の連続砂防ダム。
流出する土砂と人類の終わりなきせめぎ合い。
砂防ダムといえば個人的に兵庫県の「蓬莱峡」と富山県の「立山カルデラ」が思い出される。
どちらも濃いスポットなので興味ある方は検索してみて。
ボクが敬愛する作家、幸田文の「崩れ」も同様のテーマで書かれた紀行文だ。
強靭でいて女性的で、アンビエント音楽のように静謐な文体は唯一無二でとても心地が良くおすすめ。
怪峰剣山
左手の谷の詰まった先に剣山があるはずだが、ガスって見えない。
怪峰はそうでなきゃ。
日本人の祖先が古代イスラエル人だとする「日ユ同祖論」。
その根拠とされる「古事記」や「祇園祭」と同様に、剣山には「ソロモンの秘宝伝説」がある。
元は「鶴亀山」と表記したとか、童謡「かごめかごめ」の話とか、トンデモ話かと思いきや調べるとかなり面白い。
山ひだが十二単のように幾重にも連なる四国山地の最深部。
ボクらはその奥にある柔肌に触れようとしている。
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剣山登山の拠点、見ノ越に到着。
リフトで9合目まで行けるらしいが、短パンにビーサンという格好だったのでやめといた。寒い。
天空の村かかしの里
第一村人発見。
皆さん畑仕事に精を出しておられる。
サイクリストが感心げにそれを眺めて………….ん?
アーーーーーーッ!
人じゃない!。
アーーーーーーッ!
賑やかな集落だなと思っていたらカカシに囲まれてた、ヒーイズカカシ。
今にも動き出しそうな2人だが、彼らもカカシ。
コロナ終息を願っているらしい。
生身の村人発見
そう教えてくれたのはこちらのお母さん。
生身の人間だ。廃校の体育館にもカカシがいるから見ていけという。
ここはNHK「ドキュメント72時間」の神回、酷道ヨサク編でも大きくフィーチャーされた「天空の村かかしの里」である。
鬼気迫る、すさまじい念が張り詰めている。
消え行く限界集落に、かつての賑わいを取り戻さんとする情念。
確認はしなかったが、製作者はおそらく先ほどのお母さんだろう。
制作にかかる時間と労力は計り知れぬ。
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動くカカシたち
この「天空の村かかしの里」がヤバいのは、カカシが移動することだ。
昨日畑にいたのが今日はバス停にいる、カカシは一つ所に止まらない。
むろん、カカシがひとりでに動くわけではない。
シナリオに応じてお母さんが動かすのだ。それはあたかも村人の営みを醸し出している。
お母さんは村祭りもプロデュースする。
祭りになるとぼんぼりに灯がはいり、屋内にいたカカシたちも村を練り歩くのだ。
カカシ台帳
さらに驚くべきは「カカシ台帳」なるものがあり、カカシ一体一体に氏名、年齢、職業、趣味、性格などが事細かに記されているらしいのだ。
「カカシ台帳」はお母さんが秘匿して誰にも見せないという話もあり、いや、バス停や公民館に無造作に置いてあるという話もある。
騒がず静かに
「カカシ」というのはホラー映画のモチーフになったりして、人の恐怖心を煽る性質がある。ボクも1人だったら体育館まで足を踏み入れられなかった。
かなり刺激的なスポットなので訪れてみてほしいと思うが、過度に騒ぎたてず、静かにお母さんの情念を感じてみて欲しい。
トイレについては非常にキレイな公衆トイレがあるので安心されよ。
すいません。もうちょっとだけ続きます。
お時間許す限りのお付き合いのほど。
山奥のお好み焼き屋
「こなもん439」。
屋根のコケを削った看板が実に秀逸。
お好み焼きやらイカゲソバターやらをアテに、ネイティブの古老らと平家落人の話に華を咲かせてみたい。
平家落人
ここ祖谷地方は平家落人の里だ。
なかでも有名なのがこの落合集落。
これを目の当たりにして、急に焦がれるように平家落人に興味が湧いた。
平家落人伝説は日本各地にある。
敗れた平家が散り散りに逃げて隠れ住み、生き延びようとし、平家再興を願ったのである。
逃げると決める瞬間てのは火事場だ。静粛な会議の場じゃない。
誰と、どこへ
火事場において、誰とどこへ逃げるかというのは逃避行する平家衆にとって重要な選択だったはずだ。
やはり自分のカミさん(彼女)と、気の合うツレとそのカミさん(彼女)らと連れ立って旅立ったのだろうか。
そのメンバーの誰かの土地勘に基づいて、四国の山奥に人を寄せ付けない峻険な山里があるからそこへ逃げよう、となったのかも知れない。
蛇足だが、誰も住んでいないはずの川上からハシや茶碗が流れてくるので、不審に思った村人が川を遡ったら平家落人が住み着いていたという話がある。
京柱峠
さて、酷道ヨサクの徳島区間もいよいよ佳境。
高知との県境、京柱峠に到達。写真は徳島側。
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峠の食堂
そしてこちらが高知側。
ここにかつて京柱茶屋という食堂があった。この絶景でうどんが食えたらしい。
酷道マニアの聖地であり、心のよりどころとなっていたようだ。
今はその土台が残るばかり。
ずっと行きたい場所だった。
高知に移住したからいつでも行けると思っていたら、移住した翌年に閉業された。
【高知新聞3月21日の朝刊から】
峠名物の京柱茶屋が閉店 店主・大田さん 後継者求む 大豊町https://t.co/zygwcOWrQy#高知新聞 #大豊町 #高知 #京柱茶屋 #峠 #名物 #閉店 #後継者 #京柱峠 #絶景 #国道439号 #雲海 #しし肉うどん #おにぎり #酷道 #茶屋 pic.twitter.com/v1Tm1RuC6A— 高知新聞 (@Kochi_news) March 21, 2018
こうして行きそびれた店の数は片手におさまらない。
行きたい店があるなら思い立ったが吉日である。
国道439号の起源
ところで国道439号の起源というか、元々どういう成り立ちの道なのだろう。
この看板によれば都への往還道だったらしい。
国道439号の全線がそうかは不明だが、少なくともこの京柱峠より東はそうだったようだ。
なるほど、なにを迂回することなく、道はまっすぐに京都を向いている。
険しいが最短ルートなのだ。
ちなみに「往還」とは「街道、主要な道」のことだが、一般的には参勤交代の道をそう呼ぶことが多く、有名なところでは山口県の「萩往還」がある。
酷道ヨサクはこのあと吉野川に沿って西走し、仁淀ブルーをかすめて、四万十川源流をかすめて四万十市中村の終点へと至る。
津野町から南が未踏である。
いずれまた。