コロナ禍による外出&営業の自粛で弊店もテイクアウトにシフト、22時閉店のところを3時間前倒しの19時閉店となった。
Day&Sea is not dead!臨時休業モードに突入! | ガタリ夜話
ゴロッと時間が浮いたので映画でも観てこましたろかい!とAmazonビデオのメニューを漁ってみるのだがしっくりくるタイトルがない。
普段はホラー映画を見たがるクンだが、新型コロナをとりまく閉塞感のなかまるでそんな気になれない。
やはりホラー映画の閉塞的な恐怖は80年代のように進歩的で人々の意識が外へ向かってスパークしまくっているときに観てこそのエンタメである。
2020年4月現在、都会も地方も歓楽街はみなウォーキングデッドなゴーストタウンなのだ。
ではどんなもの欲っするかといえば、ポカンと口あけて酒呑みながら観ていられるもの、プロットを追わなくていいもの、スコンと抜け感のある映像、といったところであろう。
映画ならデビッドリンチ監督の「ストレイトストーリー」なんかドンピシャリである。
老人が時速8kmの芝刈り機に乗って、疎遠になってた兄に会いにいくというだけの内容。
シンプルながら観るたびにジワる映画で、サントラもすごくいい。
映像より活字のほうが現実逃避できる、という向きにオススメしたいのが吉村昭の「漂流」である。
現在の高知県の香南市赤岡に実在した船乗り、野村長平が土佐湾沖で大シケにあい遭難、黒潮に乗って八丈島方面へ流される文字通りの漂流もの。
長平が漂着したのは八丈島からさらに300km南に浮かぶ絶海の孤島、鳥島である。
アホウドリを主食とした12年間のサバイバル生活を経て、最終的に高知へ帰郷するという史実に基づいた長編小説となっている。
全編この太平洋上の無人島が舞台であり、シチュエーションの抜け感は文句なく最高だ。
内容もアホウドリの狩猟から肉の保存方法まで、スキルアップしつつサバイヴしていくというもので頭を空っぽにして読める。
一緒に漂着した仲間らが数年のうちに死に絶え一時的に独りぼっちになるも、新たな遭難者が漂着しまた共同生活が始まる。
そして彼らもまた一人また一人と減っていくのである。
12年におよぶ無人島生活というのはあまりに壮大で、どこか手塚治虫の「火の鳥」を連想させるものがある。
島から脱出するためラスト5年を費やして舟を造るわけだが、その出航シーンはマジでアツい。
土佐湾沿岸は天然の入江が少なく、荒天時の避難が難しかった。
黒潮にのって八丈島に流されるというのは遭難の定番だったらしい。
ちなみに同じ高知のジョン万次郎も黒潮のグルーヴにノッたクチであり、奇しくも長平と同じ鳥島に漂着している。
そして偶然島に立ち寄ったアメリカの捕鯨船に助けられ、日本が鎖国中だったため帰国できずそのままアメリカへ渡って世界のジョン万となった。
派手なエピソードこそないが、「無人島12年間帰れません」という比叡山の大阿闍梨も真っ青なサバイヴ劇をやってのけた野村長平はもう一人のジョン万と言っていい。
故郷である香南市にある土佐くろしお鉄道の香我美駅前に「無人島長平」として像が建てられている。
蛇足だが、吉村昭は「破船」という史実小説も抜群に面白い。
舞台はとある海辺の寒村。
作物は育たず、漁業も奮わない貧しい村の収入源は「お船様」である。
海が荒れると浜で火を炊き、沿岸で難破した貨物船をおびきよせる。
救助すると見せかけて積荷を奪い、口封じのため乗組員は皆殺しにされる。
村人はこれを「お船様」とよび、ひたすら待つのである。
2作品とも人々の生き延びようとするバイタリティに驚かされる作品である。