高知と徳島をつなぐ国道32号線はかつての大街道である。
司馬遼太郎の「竜馬がゆく」で竜馬が江戸へ発つとき、32号線の高知側の起点である領石(りょうせき)地区まで家族や友人で見送るシーンがある。
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領石からひとつ峠を越えさえすれば、穴内川に沿って道が続く。
大豊町からは合流した吉野川に沿って徳島へ入るのだ。
常に川沿いなので、ほとんどアップダウンなく峻険な四国山地を縦断できる唯一の道と言っていい。
大歩危小歩危や祖谷渓など観光地へのアクセス道なのでかつては賑やかだったらしいが、高知道ができて交通量は激減した。
その32号線のロードサイドにすこぶるイカす大衆食堂がある。
店先に屋号板らしきものは見当たらんが、Googleマップでは「土佐北川駅前食堂」となってるからそういう名前なのだろう。
駅前食堂というのが昔から好きである。
旅情と郷愁を煮しめて缶詰にしたような場所だから。
進学や就職で都会にでる少年は、列車の時間までここで家族と腹ごしらえしたのだろう。
平地では春めいていても山間部はまだ厳寒。
旅立つ少年を気遣い、おんちゃんは薪を足してくれただろう。
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穴内川をまたぐ鉄橋上にホームがある土佐北川駅。
里帰りした少年は、ここで懐かしい匂いの空気をゆっくりと吸い込むのだろう。
時刻表の前で足を止め、普段乗っている地下鉄とのギャップに苦笑いするのだろう。
鉄橋に付けられた通路を歩けば懐かしい食堂が見えてくる。
都会になじめずにいる少年、どんな顔で実家の玄関を開ければいいのかわからない。
おでんとビールでもとって、実家用の表情をゆっくりと作ればいい。
そういえば故郷を離れるあの日、カレーライスとラーメンを平らげたことを思い出す。
おでんをつつきながら手酌でビールを呑む今日の自分は、少しだけ大人になったのかなと思う。
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てなことをつらつらと夢想しちゃいますよね、駅前食堂って。
ボクもおでんにビールでしっぽりキメたかったんですが、午前10時半でそれはさすがに無頼だろうとやめておきました。
メシ、みそ汁、肉じゃが、おでんはスジと厚揚げ。
カミさんは卵焼きとラーメン。
ラーメンは鉄鍋入り。
食後、土佐北川駅を見にいく。
この日高知市は最高気温14℃の予報だったが、山間部の駅のホームは寒かった。
その間クルマを停めさせてもらってたので、帰り際に礼を言いに戻ったら「駅は寒かったやろ、ストーブあたっていき」と声をかけてくれる。
そんな温かいお店です。
そうそう、お店の裏にはポニーがいます。