グーグルマップを徘徊していると、たまにとんでもない物件に出くわす。
ここもその類。
マップ上で飲食店マークが付いていて、屋号が「いっくちどころもがりあい」。
ぬぬ、飲食店にそぐわぬ面妖な店名。
すぐさまストリートビューで現地にランディングしてみると、どうやら呑み屋のよう。
これは好事家の血が騒ぐ。
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検索するもネット情報はゼロに等しく、営業しているのかどうかもあやしい。
ええいダメ元と夕刻に訪れてみたら、看板に灯が入ってる。
なんと現役だった。
以前、遍路でここいらを歩いたことがある。
室戸岬へ続く国道55号沿線は、商店はおろか民家もまばらで人を寄せ付けない荒野のような印象がある。
そんなところに呑み屋があるってことにしびれる。
店内はカウンターと座敷があって、外観から想像していたより広い。
カラオケも完備だし、ちょっとした宴会くらいできそうなキャパである。
お店は女将さんが1人。
否、どちらかというとスナックのママっぽい身ぎれいさがある。
さすがに謎の一見客を不審に思ったか、「このへんの人?」という質問には「このへんの人じゃないよね?」という意味合いがあった。
高知市から来たこと、珍しい屋号に興味を持ったことを告げ、その由来について尋ねた。
「いっくちどころ」とは「一口処」、一杯呑み屋の意味である。
そして「もがりあい」とは室戸辺りの言葉で「言い合う」という意味で、口論のニュアンスも含むやや強めの言葉らしい。
つまり「いっくちどころもがりあい」は「一杯飲んで語り合いましょう」という意味なんだそうだ。
漬かりすぎたから、とアジの南蛮漬けをサービスして下さったのをいいことに、ビール1杯だけのつもりが2杯に。
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店内のいたるところにこうした油絵が飾られている。
使わなくなったお盆や、廃材をキャンパスにして、ママが描くらしい。
曰く、いかにも居酒屋、みたいな雰囲気にはしたくなくてこうして絵を飾るのだという。
スナックのママを思わせる洋装の身ぎれいさもそうした考えからだろう。
聞きそびれたけど、かつては芸術家志向の美大生だったのかも知れない。
とすると、もしかしてこのバリ島リゾートみたいなライトシェードもママの自作?
と思いきや、これはこういう製品を買ってきたんだとか。
この荒野のどこから歩いて来たのか、ボクらと入れ違いによぼよぼのおじいちゃんが暖簾をくぐっていくのだった。
もがりもがられて、深秋の室戸の夜は更けていく。